短編
※雰囲気エロ
※微グロ
※侮蔑的表現

1RTでもされたらがんばってるスコッチ夢の微エロSSを書かせていただきます!
#shindanmaker
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はぁ、と溜め息を吐きながら洗い終わった手を拭いた。鏡に映る自分の瞳、まだ瞳孔が開いている。そんなに興奮する必要もなかっただろうにと、知らず唇に乗っていた笑みを仕舞った。色々とご無沙汰だったから仕方がない。嫌だな、ご無沙汰どころか足を洗っちまいたい。

生まれてこの方女に興奮したことはない。そんなありふれた性癖をよもや外れ者の集まりである犯罪組織でも論われるとは思いもしていなかった。俺がホモ野郎であることは割と周知の事実だし、好みでも何でもない奴等に「俺のことはそういう目で見るなよ」と言われたりもする。大抵「唆られねぇブスがほざきやがる」と返すともう二度とそんなふざけた事は言われないが、まぁその分敵は多かったり少なかったり。本当の事言ったっていいじゃないか、面食いだもの。

俺が周りから煙たがられているのには恐らくもう一つ理由がある。否、もちろん細かく追求したらもっとあるのだろうけれど、大きな理由というところでだ。俺は拷問や尋問を生業にしている。どうあっても口を割らない強情っ張りを相手取って、時には痛めつけて時には懐柔してお話を聞くのが役目だ。そんな物騒な奴が友達多かったら世も末だよ。俺だったら近寄りたくもねぇ。

はぁ、と知らず強ばっていた身体から力を抜く。今日は人を痛め付けるパターンだった。組織から「こいつは是非痛め付けてください」という要求があったからだ。出来たら全員と和解ルートでお話を聞きたいんだがそうも行かない世知辛い世の中である。

ばたん、と後ろ手に扉を閉める。死体は後で業者が引き取りに来るのでそのままで良いらしい。何やら使い道があるとのことだが気持ちのいい話じゃないことは確かだ。死体に気持ちいいも気持ち悪いも無いだろうけど。ふと顔を上げると、拷問部屋に隣接した武器庫の壁一面に掛かった武器をしげしげと眺めていた黒髪の男が、俺に気付いてこちらに視線を向けたところだった。

「…来てたのか、残念だったな、もう"終わった"ところだ」

そう言ってから、はたと気づく。いやいや何が残念なもんか。拷問なんて好き好んで見たい奴なんて稀オブ稀だ。俺もしかしたら言葉選びがマズすぎるせいで友達いない説あるかもしれない、とその男、スコッチの様子を伺う。組織の中でも割と俺に分け隔てなく接してくれる相手だ。俺の物騒発言を特に意に介した様子もないスコッチが、僅かに眉を下げて困った顔をした。

「そうか、俺もちょっと聞きたいことがあったんだけど…」

別の意味で残念そうなスコッチに、まぁ強ち間違った言いまわしではなかったのかと少しほっとする。こんなんだから人でなしエレクトリカルパレードみたいな犯罪組織の中でもちょっと距離置かれたりするんだぞと自分を責めちゃうところだった。新入りの中には俺とジンを同列に見てる奴とかもいるらしい。一緒にしないでくれあんなのと。

「そうだったのか…映像なら残ってる、好きに見て良いぞ」

そうスコッチに返しながらパソコンの電源を入れる。拷問部屋の監視カメラにしか繋いでないので大したシステムはいらない。研究室で使われなくなったブラウン管テレビみたいなデスクトップだ。人望ないからこーんな古いのしか貰えませんでしたむしろ逆にレアモンだろ。ほれ、とスコッチに椅子に座るように促すと、意外そうに釣り目を丸くしたスコッチが俺を上目遣いで見た。

「良いの?」

「あぁ、お前の聞きたかったことが知られるかは微妙だが…」

ふおん、とパソコンが起動する。映像は逐一外付けのハードディスクに保存されている。テーブルに尻を乗せて映像のビュアーソフトを立ち上げて、丁度拷問相手を部屋に運搬した時間まで遡らせた。途中切れ切れに写った血腥い光景に少し辟易としながら、目の前の男の生業を思い出す。スナイパーは基本的に相手を一撃で仕留める事が多いはずなので、指をふっ飛ばしたり腸を蝶々結びしたりなんて場面にはあまり親しみがないのではないだろうか。いや俺も別に親しみたくて親しんでるんじゃねぇわ。けど今日なかなかえげつない事したしな、ネイルハンマーを文字通り"ネイル"ハンマーとして使う事なんて一般のご家庭ではそうそう無いだろう。

「…これから書面に要点を纏めるところなんだが、得意じゃなかったら後で…スコッチ?」

気遣いの意味を込めてそう尋ねる。スコッチの視線が画面を離れて少し下を見ていたので、俺の考えも強ち的外れでは無いんだな、なんて思った。けど、その表情にふと違和感を覚える。垣間見えた拷問の凄惨さに引いた訳ではなさそうなその顔は、興味深そうにじっとこちらを見ている。目線は合わず、どちらかと言えば机、と言うよりも。そこまで考えて、動揺してひゅ、と思いっ切り息を吸って真下に視線を下げれば、俺の股座で確かな硬度を持ってしまった、それ。

「いや〜待ってあのね?違うじゃんこれはあの〜、言っとくけど俺加虐性愛とか死体性愛とか血液性愛とかそういうやつじゃなくてこれは多分交感神経の活性化?とかなんかそういうやつのあれなんで放っとけば収まるっていうかも〜まじまじ見るもんじゃないんだってホントお前が見るのこれじゃなくてこっちだってば…」

頭を抱えたくなって、というかもう抱えながらすっと両手で画面を指し示す。ご無沙汰だとこういうクソみたいな誤作動が起きて困る。鏡で瞳孔開いてて顔がガンギマってるのは確認したが、まさか下半身までしっかり興奮してるとは思わなんだ。未だにアドレナリンが出て身体の中から全身ぽかぽかしていたから全く気が付かなかった。もうお願いだから早く必要な情報持ってお帰りくださいと机を明け渡そうとすれば、恐る恐るといった様子でスコッチが口を開いた。

「…あの、俺、抜いてあげようか…?」

「え〜ウッソ〜もしかしてお前俺よりヤバくね?」

思わず組織の拷問担当の面の皮が剥がれて普通の若者がこんにちわしてしまう。組織内で趣味が人を痛めつける事、シュミが男だと思われている俺をそういった意味で誘ってくるなんて真性ドマゾの雄豚くらいだ。それに加えて噂で面食いも重なってるのだからハードルは走り高跳びくらい高い。実際はサドは全くの濡れ衣なんだけど。一人歩きしまくった噂を加味すると多分十分ヤバい俺にヤバい、と言われたスコッチは、少し不本意そうに唇を尖らせる。

「だってそれ、苦しくないか?…それとも、俺の顔もあんまり唆らない?」

「えーーっとそれはぁ…その…」

言い淀んだ俺に、スコッチが小首を傾げた。その仕草をされると、顎髭に縁取られた童顔の目鼻立ちの良さが際立つ。ここで敢えてはっきり言おう。猫目で一見取っ付きにくそうだが、自信有りげに笑うと小生意気に見える顔は正直どタイプ、ストラックアウトで言うと五番である。

つまり役得っちゃあ役得なんだけど相手は俺と同じく犯罪者。恋人でもセフレでも、出来たら日常を忘れられる犯罪組織じゃない子が良い俺としてはお断りしなきゃいけない場面だ。それに、いやそれ以前に俺みたいなのとそういう関係になったとして、スコッチには一切利点が無いだろうに。ううん、と唸った俺に駄目押しするように、少し恥ずかしそうに寄って来たスコッチがじっと真っ直ぐ俺を見つめて来た。

「駄目かな…前から、お前ともっと、近くなりたいと思ってたんだ」

子猫みたいにきゅっと目尻が上がったその瞳の奥には下心、俺には明確に相手の内心を推し量る能力はないが、恐らく打算のようなものが浮かんでいる。それよりも、そんな風に真っ直ぐに好意らしきものを伝えてくる言葉を久し振りに聞いたから、返す言葉を取り落としてしまった。しかも顔が良いのずるい。勝算があると確信しているのだろうか。多分そうなんだろうな。

近くなりたい、だなんて、随分な殺し文句だ。俺の近くなんて誰も居ない。俺みたいな嫌われ者なんて、ちょっと優しくすればすぐにころっと行くと思われているんだろう。実際その通りである。身内から仕掛けられた明確なハニートラップにむっと口を引き結んで灰青の瞳を睨み付けると、スコッチは怯んだようだった。しゅん、と肩を落として、その場に座り込む。膝立ちになると、丁度俺の暴走した息子とご対面する位置だった。

「あの…嫌だったら、別の人思い浮かべてていいから…」

お願い、と、スコッチがやけにしおらしく俺の太腿に手を添えた。懇願するような瞳が俺の視線を絡め取る。一度自分から言い出した手前、引き下がれないのだろうか。優しそうな雰囲気を纏っているのに、実はプライドが高いのかもしれない。多分違うだろうけど、そう言い聞かせて自分を納得させた。だってそんな風に見られたら、まるで好かれてるみたいで苦しくなってしまう。せめてもの抵抗に、何とか喉の奥から言葉を振り絞った。

「…別に…そんな事しなくても、俺の持ってる情報くらいいくらでも持ってっていいよ…つっても大したこと知らないし、どうせ報告すっからちょっと待てば知れるようなもんしかないけど…」

ぴくり、と太腿に添えられたスコッチの指先が震える。やっぱりそれが目当てなんだなと合点して、更に言葉を続けた。俺みたいな寂しい男に対して情を前面に出して迫ってくるような相手に裏がないわけが無いって、そんなの最初から分かりきっていた事だ。

「俺みたいなクズ相手にさぁ、さすがにそれは勿体無さすぎるだろ、スコッチ」

転がり出たのは、情けない事に本音だった。本当は、こんな同情を誘うようなことを言いたかった訳じゃない。嫌だな、弱音はこんな所ではまるきり弱みになりうる。それもあって敢えてどサド快楽殺人鬼の拷問大好き面食いホモ野郎に甘んじていたというのに、この男ときたら。ゆっくりと目を見開いたスコッチは、その青灰色の瞳をじわじわと揺れる涙で満たして、眉を寄せて震えた声で言った。

「何で、そんな事言うんだよ…」

「いや何でって…何で、はお前だろ…何で急に怒っ、」

てんだよ。心外だとでも言うように睨み返されてしまったのでそう尋ねようとしたら、太腿をぎゅむっとつねられた。痛ぇよ、何なんだよ。文句を言うために口を開くと、俺より先に言い切ったスコッチがぼろりと涙を零した。

「お前はクズなんかじゃない、少なくとも、俺はそう思う」

「…お前ね」

困った。泣かれると困る。何故困るのかは具体的に分からないけど、困るもんは困る。はらはらと一つ目の雫を追ってスコッチの頬を走る涙を、拭おうとして手を止めた。自分の指先の、爪の中に入り込んで取り切れなかった血の跡が目に入る。引っ込めようとしたら、それよりも早く動いたスコッチの手がぱしりと俺の手を捕まえて、指先に濡れた頬を擦り付けた。俺の親指が突然目を抉るとか、考えないのか、お前は。

口先だけなら何とでも言えるとか、そんなことは俺が一番良く分かっている。今ここで壁に控えている誰かの手を借りてしまえば、スコッチだって己の間違いをすぐさま訂正するだろう。でも、その嘘を嘘のまま受け取ってしまいたい自分もいるのだ。全くもって笑えない。例え中身が石ころでも、ラッピングを破かなければずっと素敵なプレゼントだなんて、馬鹿も突き抜ければ幸せに辿り着く。

恐る恐るその肌に掌を添わせると、ちくりと掌に髭が掠めて、真っ直ぐで柔い髪が指に懐いた。濡れた瞳をすっと瞼の裏に隠して俺の手に擦り寄った、その男の真意が分からない。分かんないよ、何でお前が泣くんだよ。問わなかったから、答えはなかったけれど。







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