短編
※花吐き病、ポメガバース、オメガバース、うさぎバース、DomSubユニバース、淫紋、ペイントバース


部屋の明かりが点いていたので「ただいま」と声を掛けた。郵便受けに入れておいた鍵で先に萩原が帰っていたんだろう。いつでも来て大丈夫だからと伝えておいたが、不用心だしそのまま萩原に渡してしまっても良いかもしれない。

「はいはいおかえり〜、飯でき、て」

部屋の奥からひょいと顔を覗かせたのはやはり萩原だった。おかしなところで言葉を切った彼は俺の顔を見るなり、す、といつもの人好きのする笑みを取り零した。

「んだよ、それ」

それ、と言われて、すぐに真っ白に染まった髪の色のことだと分かる。まぁひと目見ただけで分かる変化なのだからそう言われるのも当然である。俺だって鏡を見たときは「なんだこれ」と卒倒しかけたし。

「あぁ、これさっき、も」

ろふしと降谷に会って。どうせ黙っていられないから萩原には言ってもいいかと聞いたところ、公安二人に「まぁ奴なら大丈夫だろう」と許可を貰った。萩原も降谷と諸伏の安否を知りたいことだろうし、とそう続けようとすると、それよりも早く萩原が俺の胸倉を引っ掴んだ。

「なんで早速他人に唾付けられてんの?なにしてんの?誰の色だよ、これ」

力任せに壁に押し付けられて、思わず呻き声が漏れる。自分のタッパとパワーが頭から抜けているらしい機動隊男、その腕を掴み返して整った顔を睨みつけてやった。長い前髪の隙間から覗く垂れ目と視線がぶつかると、一瞬怯んだように瞳が揺れたあと、長い睫毛が悲痛そうに伏せられた。

「…やだ、やっと、俺のになったのに…」

ずる、とその頭が俺の肩に乗っかって、首に擦り付けるようにして縋られる。肩口ですん、と鼻を啜る音が聞こえて、俺は思わず、その自分よりでかい男を抱き締めていた。

「…萩原ってほんとに俺のこと好きだったんだ…」

突然現れた口から花を吐き出す病気が、本当に好いた相手と両思いになるなんていうロマンチックなお薬で解決されるなんて、正直疑わしかった。

だって、萩原の興味の対象が女の子であることなんて、さほど仲良くもなかった警察学校時代から知っていることだ。だから、本当は何か別の条件でひょっこり治ってしまったのでは、とか、俺の過失で番になってしまったからどうにか俺のことを好きだと思い込もうとしているのだと、そんな事だろうと思っていたのに。俺の胸倉を掴んでいた手から力を抜いた萩原が、くぐもった声で恨めしげに言った。

「お前こそ、ほんとに俺のこと好きなのかよ…」





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