短編
※花吐き病、ポメガバース、オメガバース、うさぎバース、DomSubユニバース、淫紋


あり得ないことが起こっているのは大体分かった。これまで生きてきた中で体験したことのない衝動。なんの前触れも無く身体が作り変えられてしまったと理屈ではなく理解出来る、狂おしい程の熱。突然降って湧いたそれを持て余しているのは自分だけではなく、どうやら自身を組み敷いている男もなのだと聡い萩原は察した。だから、これはチャンスだ。

「いいよ」

そう甘やかに促しながら、我ながら悪魔の囁きじみているなと自重する。萩原の予想が正しければこの全身に強く蟠る切なさは紛れもなく"発情"だった。しかもその源は自分で、目の前の思い人はきっと、それにあてられているだけ。「いいよ」というのは許容に見せかけた懇願だった。それを裏付けるように、荒く息をする男が首を横に振る。

「い、やだ、はぎわ、ら」

餓えた獣のような瞳が、いっそ幼気なほど揺れている。はぁ、と苦し紛れに漏れた彼の吐息は火傷しそうなほど熱くて、思わず笑いが込み上げる。

なぜこの期に及んでそこまで拒むのか。彼に項を差し出せと急かす知らない自分の声に抗う気は沸かない。それで萩原はまるごとこの男のものになれるのだと、まるで生まれた時からそうだったかのように魂が言っている。

元々この友人には淡い好意を抱いていたし、こんなおかしなことが起こらなければ萩原は一生それを腹の底に仕舞って生きていく予定だった。少しずつ、少しずつ距離を詰めて。思いは遂げられずとも、あわよくば幼馴染の松田と同じくらいの距離まで引き入れてしまおうと、虎視眈々と狙っていた。そんな相手だった。衝動に任せて萩原を食い散らかせばいいのに、本能に逆らおうとする彼を陥落させるには。そうするにはどうすればいいか、萩原は知っている。

萩原を真横から押し倒して床に押さえつけた彼の怯えた顔を見上げる。何も怖い事なんかないのに難儀なことだ。目を細めて笑って、それからゆっくり、見せ付けるように襟足を掻き上げて項を晒した。ごくり、と喉を鳴らした彼を、突き落とす。

「… "きて"come

そう命令されて瓦解する男の理性。ぶつりと急所の皮膚を食い破られる感覚に、萩原の身体がふるりと歓喜と悦楽に戦慄いた。あぁ、やった、やってやった。実直な彼が、もう自分以外を選ぶことはないだろう。そう確信した萩原は、上手に命令を聞けた男の髪を撫でながら一人ほくそ笑んだ。





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