短編
「おい!どこに連れてくんだよ…!」

サイドカーでのたうち回りながら文句垂れ流す男に高笑いを返す。まだ自分の所属が知れたと気付いていない筈なのに、不穏を感じ取る力には長けているらしい。スコッチ、公安の犬にしておくには勿体ないな。なんつって。

この男との任務を終えた頃、俺の携帯に届いたメールは簡潔なものだった。「Scotch is NOC」という、三つの単語。

隣に本人いる中で飲んでるフラペチーノ吹き出さなかっただけ褒めてくれよ。件のスコッチの腹を殴ってさっさと気絶させて、梱包して愛車のサイドカーにぶち込んで今に至る。

取り急ぎ耳にくっつけたインカムからの指示のままバイクを転がす。俺のスマホに入ったGPSを見ているのだろう、的確な道案内だ。コンクリで固めた死体を隠すのに最適な、東京湾の見える倉庫群。そこに見覚えのある乗用車を見つけた。サイドカーが邪魔にならないように車の助手席側につけ、メットを外してからコンコンと窓をノックする。NOCだけにな。

「チーッス!三河屋です!」

「でかした!」

運転席からとインカムから、二重に褒め称えてきた俺の飼い主のユーヤが車から飛び出してくる。身動きが取れないプレゼントくんのラッピングをしてやると、ようやっと何となく状況を飲み込んだようだった。

「うわっ、え!?風見さん…!?」

「諸伏…良かった…!」

涙ぐむユーヤを笑い飛ばしながら、スコッチからパーカーを引っぺがして、代わりに俺が脱いだライダースを着せる。自分の胸ポケットに引っ掛けていたサングラスを、キュートな猫目を隠すように着けさせれば、完成だ。

「ワオ!男前になったなスコーッチ!バイバイのチューしようぜ!」

右頬を押し付けてちゅ、と音を立てると「んぶ」とスコッチが奇声を上げる。ハイハイ可愛い可愛い。スコッチのパーカーを着てからユーヤとアイコンタクトをして、メットを被った。さて、楽しい鬼ごっこの始まりである。

「お前!なんで…!」

「Good luck!」

食い下がるお尋ね者をユーヤの車に押し込んで、後ろ手に合図を送ってそのままテイクオフ。何でって、その理由は今度会えたら教えてやるよ。




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