個性:小豆洗いと爆豪リターンズ

体育祭も終わり、本格的に夏がやって来た。強い日差しの中、ただでさえあまりやる気のない普通科目の授業は、体に睡魔を送り込む。爆豪勝己もそういった一人だった。

「…………ん?何か、聞こえない?」

耳郎がそう声を挙げて、みんな、耳を澄ませてみた。

「……596、597、598、…………」
「何だこの声」

やけに小さく、そして恐怖感を煽る声が聞こえる。何を数えているのだろうか、時折ざらざらとした音もした。何か小さいものが擦れ合うような、そんな音だった。途端にざわざわとざわめきだした教室内で、爆豪だけが心当たりがあった。それにしても、彼女は何でここにいるんだ。

「628、629、630………何回数えても、あと148粒足りない………………」

お前洗ってる数把握してんのかよ、とか。計算早いなオイ、とか。言いたいことは山程あったが、今はいい。もう一度1から数えようとするのが聞こえて、爆豪が立ち上がり、ドアを開ける。目の前には驚いて豆をザルから落としてしまった、通称・普通科の妖怪、個性が小豆洗いのみょうじなまえの姿があった。

「あ、ああーーーーっ!!」

テンテンと転がっていく小豆を追いかけるが、それにより持っていたザルがひっくり返り、すべてその場にぶちまけてしまった。

「……………お前、何してんだ」
「ああ…………私の小豆ちゃんが、な、なんてこと…」
「無視すんな」

この世の終わりみたいな絶望しきった顔で、ばらまいてしまった豆を見つめる。そんななまえに溜め息をつき、珍しく優しさを発揮して、落ちた豆をすくってザルにいれた。

「また洗えば綺麗になんだろ。個性がそうなんだから」
「あ、ありがとう…!!あんこ食べる?」
「いらねえ。つか、早く教室帰れよ。何でいんだ」
「だって、つまずいて、豆が落ちちゃったからさ…」

しゃこしゃこと洗う音が聞こえ、爆豪はイライラする気もなくなった。マイペースすぎる。

「何でヒーロー科のとこまで来てんだよ」
「この前あんこ食べてくれた人にお礼を言いに…」
「あ、俺俺!」
「来んな。ややこしくなんだろ」

上鳴が席を立とうとするのを、睨んで一蹴する。

「あと私の小豆を布教しに…」
「とりあえず今日は帰れ」
「ね、お砂糖控えめにするから、食べてくれない?私ってこんな個性だし…小豆洗うかあんこ作るかしか能がなくって…優しくしてくれたから、何かお礼がしたいんだ…。あ、もちろん、この落ちた豆では作らないから!」

やけに悲しそうな目で言われて、言葉が詰まる爆豪。あんこなんて、一番甘そうな食べ物を食べたくない気持ちが募るが、このままだとなまえが帰りそうにないので渋々頷いた。

「スプーン一杯くらいで勘弁してくれ」
「わ、わかった!ありがとう!今度持ってくるね!」

ぱああっと輝く笑顔を見て、一瞬怯んだ隙に、なまえは軽やかに普通科の方へと走っていった。

「……………つーか、これ、誰が掃除すんだよ」

床に落ちている小豆を、一粒摘まんで、そう溢した。



「なあ、上鳴。味はどうだったんだ?」
「え?ああ、美味かったぜ!何でも、食堂のあんこ乗ってるパフェとかのは、みょうじの手作りなんだってよ」
「そうか…(ちょっと食ってみたい)」
「轟、和菓子とか好きなん?」
「まあな」