まどろみまみれ

「かっちゃーん」

雄英が敵対策に、寮制にするらしい。今はこうやってかっちゃんの部屋でまどろんでいるけど、そうなればなかなかできないということで。楽しそうな反面、ちょっと嫌だ。かっちゃんも私も、人前でいちゃいちゃしたいタイプじゃないし。電話とかくれるタイプでもないしな、かっちゃんは。下手したら電話しても出てくれないし。

かっちゃんは寝ている。疲れてるのはわかる。だって、つい先日まで敵に捕まってたから。いくらタフネスって言ったって、緊張はしたはず。怖くはなかっただろうけども。

「かっちゃーん?」

呼んでも起きない。呼んだって意味はない。普段、「かっちゃん」って呼ぶと緑谷くんを思い出すみたいで、10回に1回くらいしか振り返ってくれない。「ねえ」って呼んでも反応してくれるのに、「かっちゃん」はダメ。基準はわからない。

寝ているのに眉間に皺が寄っている。寝ている間くらい、穏やかな顔ができないものかと、ぐりぐりとなぞって皺を和らげる。それでも寝苦しそう。でも綺麗な顔。平常時は不機嫌か、悪人面か、呆けた顔しかしないから、あんまり実感しないけど、かっちゃんはかっこいい。モテるだろうなぁ。本人は気にしてないみたいだけど、多分バレンタインになったら轟くんとかに突っ掛かりそう。「何でお前の方が多いんだよ」とか。そこら辺はみみっちいから、自分が一番じゃなきゃ嫌そう。でも、もらったチョコレートは食べないと思う。仕方無いな、私が食べてあげる。バレンタイン………かっちゃん、手作り嫌いそうだし、市販の方がいいかな。

「ばくごーくーん」

どうしても起きないので、私も寝ようかな。贅沢にもかっちゃんのお腹に頭を乗せる。あとで怒られそう。

「………寝れない」

頭が高すぎて違和感。渋々、お腹から頭を下ろし、かっちゃんの横に寝そべる。……触っていたい。抱きついてもいいけど、暑いしなあ。と、思って、かっちゃんの手を握った。指の間に指を通して、恋人繋ぎ。普段は絶対しない。言えばしてくれるけど、かっちゃんからは絶対ない。温かいな。これで眠れそう。だけど、体勢が掴めなくて寝づらい。これもダメか。

「………お前、さっきから何してんだ」
「起きたの」
「ごそごそしてるから気持ち悪かった」
「気持ち悪いって……」

彼女に向かって。

寝方を考えていたと言うと、「俺を巻き込むな」と悪態をついた。元はと言えば、彼女が部屋に来ているっていうのに、寝ているかっちゃんが悪い。

「かっちゃん、遊ぼーよー」
「今日は寝る」
「寮生活が始まるんだよ!?もっとこれを機にさぁー、いちゃいちゃしようよー!」
「寝るっつったら寝る」

かっちゃんが寝返りを打った。これは完全に寝る体勢だ。寝かせまいとかっちゃんに被さって、語気を強めに名前を呼んだ。

「勝己」
「………んだよ」
「勝己、寝ないでよ。寂しい」
「我慢しろ」
「……明日からまた忙しいのに……」
「お前も寝ろよ。そしたら、寂しくないだろ」

にゅ、と勝己の腕が伸びてきて、後頭部に手が回った。そのまま胸元に押し付けられる。寂しくないけど、一緒にいる心地がしづらくて嫌だ。でも、勝己は眠たそうにしているし……これ以上、ぐだぐだ文句を言うと、キレられる可能性もある。

「……勝己、キスして」
「………しゃあねえなぁ、」

渋々と言ったように、触れるだけのキスをしてくれた。もっと甘くして!と、注文をつけようかと思ったけど、それはなんだか自分でも寒気のする我が儘なのでやめておく。まどろんでいる勝己は素直に言うことを聞いてくれる。眠たそうに開いた赤い目が、なかなか可愛い。

「これで満足だろ」
「うん」
「じゃあ、寝ろ」
「んー……」
「起きたら何でも聞いてやるから」

お、珍しい。それほど眠たいのか、かっちゃんは言ってはいけないことを言った。「何でも」?確かにそう言ったよね。何をしてもらおうかな。ハグとか、キスとか……。かっちゃんの体温が丁度よく眠気を誘い、うとうとと瞼が重くなってきた。ああ、何をして……もらおうかな……。

名前を呼んでもらって、「愛してる」とでも言ってもらおうかな。