悩み悩んで強くなる

考えちゃいけない、考えちゃいけないと思えば思うほど考えてしまうのは何でなんだろう。ああーっ、でも考えてしまう!これって私だけじゃないよね!?みんな思うよね!

「だよね梅雨ちゃん!!!」
「そうね。私も好きな人ができたらそう思うかもしれないわね」

梅雨ちゃんがあっさりと賛同してくれた。梅雨ちゃんには申し訳ない話だけど、上鳴くんと付き合って人生薔薇色のはずの私は、残念ながら嫉妬に苛まれていて、ここ最近は愚痴ばっかり言ってしまうのだ。でも梅雨ちゃんは、つまらなさそうにするどころか、真剣に話を聞いてくれるし、歯に衣を着せず、ずばずばと何でも言ってくれる。

「でも上鳴ちゃんは言われないとわからないと思うわ」
「やだ!!嫉妬深い重い女だって言われそう!ああいうチャラチャラしたタイプは絶対そう思うよ!」
「なまえちゃん、上鳴ちゃんのこと本当に好きなの?」

愛ゆえの罵倒だよ!……なわけないよ!もう自分でも何言ってるかわかんないけど、とりあえず私は上鳴くんが他の女子を褒めてるのが嫌なの!前髪何センチ切ったとか、新しい髪留めとかそんなのわからなくていいから!可愛いとか安売りしなくていいから!友達なだけって言われても気にしちゃうから!響香ちゃんとライブに行くって言われて、複雑な気分になるの嫌!だって、響香ちゃんは私にとっても友達だし、ライブに行くほどファンなわけじゃないし………。でも、2人で出掛けるとか、なんか、なんかこう……!響香ちゃん可愛いしいい子だから、いざというとき勝ち目ないんだよなぁ!

素直にもなれないし、言える勇気もない。結局梅雨ちゃんに愚痴って終わり。バカだなぁ、もう本当。

「ごめんね、梅雨ちゃん。楽しい話しよ」
「大丈夫よ。乙女心は複雑なものよ。それに、百面相してるなまえちゃん、おもしろいわ」
「ああーっ、何だろう!複雑!」

生温かい目で見てくる梅雨ちゃんの後ろで、切島くんが涙目で、爆豪くんに勉強を教えてもらっていた。梅雨ちゃんの言葉よりそっちが気になる。どうした、どうしたの切島くん。

「爆豪の教え方わかりにくいんだよ!!その上、間違ったら爆破されっし、キレられっし!!」
「てめぇの脳みそがバカだからだろうが!!さっさと詰め込めカス!!」
「いってえ!!!!」
「殺伐としてるわね」

丸めた教科書でボコボコに切島くんを叩いている。口角が上がってるし、罵倒する割には放り出さないから、叩いてるの楽しいんだろうな………。それもそれでどうかしてるけど。

「なまえちゃんに教えてもらえばいいじゃない。上鳴ちゃんにも勉強教えてるから」
「あー……」
「ああ…」

ふ、2人とも納得しないで!!上鳴くんも、や、やればできるから!すぐ勉強から逃げようとはするけども!

切島くんが「爆豪頭良すぎてわかんねえんだよ!お願いします!」と言うもんだから、爆豪くん監督のもと切島くんに数学を教えた。爆豪くんが教えてもできないぐらいって聞くからどんなものかと思ったけど、切島くんは上鳴くんより早く理解して、残りの問題は全部1人でできた。

「できるじゃん…」
「な、できたな。マジ奇跡だ!!」
「出来んなら最初からやれや!!時間無駄にしやがって!!」
「おめでとう切島ちゃん」

わいわいとみんなで話していると、上鳴くんがワナワナ震えながら近寄ってきて、私の肩をぐっと掴んだ。え。………え?

「切島ならまだ勝てるけど、爆豪とかやめろよ!?勝ち目ねえだろ!?」
「えええ何のこと!?」

間近で叫ばれて、さすがに引いてしまった。ていうか、何で上鳴くんもちょっと涙目になってるの?男子の間で流行ってるの?

「俺なんか貶された?」
「ヘボって言われてたな」
「いや、そんなストレートじゃなかった気すんだけど………」
「だって切島は俺に似てんだろぉ!」
「全然似てないわ上鳴ちゃん」

梅雨ちゃんが、でも、と続けた。

「なまえちゃんとは似てるわね」

勝ち目ない。勝ち目ないって、そう、さっき私が響香ちゃんに対して思ってたことと同じ。上鳴くんも同じように不安だったの?なんだ、なんだぁ。

よかったぁ。