暇を持て余した王の宴
「おい」
昨日ふと思い付いただけだった。ただ何となく最近は忙しかったし、みんな疲れてるみたいだから、大はしゃぎできるようなことがしたかっただけだ。ということで、王様ゲーム行っちゃうよ!
「おい」
割り箸を大量に買ってきて、クラスの人数マイナス一人分の数字と、王様のマークを書くのは予想以上に大変だった。数字多すぎるよね。複数指名ありだから許して。
「おい聞いてんのか!俺はやらねえって言ってんだろ!」
「強制参加だよ!」
「ろくでもねえな!」
個性が釘なので、爆豪のブレザーの端を椅子に打ち付けて固定してやった。次帰ろうとしたら脳天にぶち込むっていう、脅は…交渉により、爆豪も参加してくれることになったのだ。
みんなに割り箸を引いてもらっていく。上鳴と峰田はどうせ邪なこと考えてるだろうから、あの二人には当たりませんように!
「王様だーれだっ!」
「あ、私や」
「麗日さんなら安心だね」
緑谷くんがそう言った瞬間、お茶子が「5番が14番にビンタ!!」と言い放った。お、今の緑谷くんのショック顔いいね。写メ撮りたかったなー。
「14番誰だよ!」
「げっ、切島5番かよ!」
「切島が上鳴にビンタ?」
「てめー個性使うなよ!!」
初っ端にクラスで一番明るい奴等が当たるとは幸先いいね。王様もお茶子だし。一番初めに轟とか来たらどうしようかと思った。轟も爆豪と同じく渋ってたし。でも思うに轟は、あんまりこういうバカ騒ぎをしたことなさそうだから、戸惑っただけなんじゃないかと思ってる。
「歯ァ食いしばれよー」
「ひでぶっ!」
パァン。なんてもんじゃなくて、ズパァン!!みたいな音が響いた。切島容赦ねぇー…。
「女子じゃなくてよかったぜ」
「いや男子でもキツいわ!」
「いったそー…上鳴大丈夫?」
「女子に心配してもらえたので俺は大満足です!」
「なまえ、次行こう次」
響香が、三奈に心配されて調子に乗った上鳴の頭を叩いて、私にそう言った。上鳴踏んだり蹴ったりだな…。
「王様だーれだっ!」
「私ですわ」
「また女子かよぉ!!」
「困りましたわ…。こういうのって、どんなことを言えばいいのか……」
百もあんまりこういうのしたことなさそうだしなあ。「何でもいいよ」と言えば、思い出したかのように、自分の席に戻り、漫画を一冊持ってきた。
「では、12番と2番が朗読してください」
「えげつねえのキタ!!」
「男子二人来い!」
「やめろバカ!!」
まさか少女漫画朗読とは…。私も自分の番号を見るが、幸い当たってなかった。
「……僕12番だ……」
「緑谷どんまい!!」
「2番誰なんだろ」
「…………………俺だ…」
「男子二人キターーー!」
2番手でまさかの緑谷&轟ペアきた!!
「では、緑谷さんが女性の方で、轟さんが男性の方を読んでください」
「えええ僕女性役!?」
「………轟に放送事故させる気?」
「おい。待てみょうじ。失礼じゃないか?」
二人以外の男子が、全員ほっとしていた。緑谷と轟は犠牲になったのだ………。さあ言ってみよう!アクション!
「………きゅ、"急に呼び出して、ごめんね"」
「"ああ、いいよ。気にすんな"」
百が用意した漫画は、三奈が貸してくれて女子全員で回し読みをしているので、登場人物の性格や話の流れがわかっている。二人が読んでるシーンは、主人公・明海がずっと憧れていた、クラスの爽やか少年・恵太に思いを告げるところで、衝撃のクライマックスが見所だ。
「"で、何だよ…話って"」
轟が意外とスラスラ読んでるのが何とも言えない。まあ、最初の方は恵太は普通の男子だし、普通に読めるんだろう。
「"実は…わた、私、ずっと言いたいことがあったの"……"わ、私、恵太くんのことが…"」
緑谷!緑谷!!「死のう」みたいな目をしないで!
「"待ってくれ明海。実は俺も、お前に言いたいことがあったんだ"」
轟がページをめくった。
「"実は……俺、ニューハー…!?……フにな、る、んだ?"」
「ぶっwwはwwww何だよその漫画!!!」
「ニューハーフになんのか轟!」
女子はにやにや、男子は爆笑している。轟可哀想。
「"い、いいよ!それでも…わ、私は、恵太くんのこと、すっ…………………き、だよ"」
「明海くん器大きすぎやしないか!?」
飯田が思わず突っ込むくらい、この漫画は突っ込みどころが多いラブコメなのだ。轟は大爆死したが、百は満足げだったし、大いに笑わせてもらったので次に行こう。
『王様だーれだっ!』
「うっひょおおおお俺だぁぁぁ!!」
「げっ!峰田!!」
椅子から立ち上がって、万歳をし始めた峰田。飯田が「行儀が悪いぞ!今すぐ降りるんだ!」と注意していた。委員長通り越してお母さんみたいだね。
「じゃあ、15番が三分間語尾に"にゃあ"をつけろ!」
「15番誰?」
「意外に地味だね」
「ばっか野郎!意外と恥ずかしいんだぞ!女の子の照れる顔がみたいんだよおおおお!!」
「俺だにゃ!」
「ぬおおおおおお前かよおおおおおおお」
まさかの飯田だった。ハッ…さっきの流れはもしかして、フラグだったのか?!飯田が潔く言うもんだから、こっちも弄るに弄れない状況になり、不発に終わった。
『王様だーれだっ!』
「私だ!」
「みょうじか!」
「全員ひれ伏せ!!!」
「そんなんアリかよ!?」
「ってのは、嘘でー。んー、じゃあ…9番の人に、このクラスで好きな人ベスト3言ってもらおっかな!」
嫌いな人かと迷ったけど、好きな人の方が丸く収まるしね。誰になるかな〜。爆豪らへんだとおもしろ……
「…………」
スッと手を上げた。爆豪だった。やばい、私予知の個性も持ってるんじゃないかな!!爆豪がこのクラスで好きな人とか興味ある!みんな爆豪の方に前のめりになっていた。
「いねえ」
「別に"こいつは友達だと思ってる"でもいいよ」
「いねえ」
「爆豪ひでぇ!」
切島が叫んだ。ね、切島よく声かけてるもんね。爆豪が孤立しないようにそこら辺ちゃんと見てくれてるじゃん。
「……………いねえな」
「…なんかごめん爆豪」
「謝んな!ぶっ殺されてえのか!」
「じゃっじゃあ中学では!?」
「………」
「そこんとこどーなの、緑谷」
「うえっ!?んん、んー……(昔から遊んでるし友達だと思うんだけどなあ、あの二人…取り巻きみたいなところもあるけど……)」
緑谷の視線が泳いでいる。私は開けてはならない物を開けてしまったのではないだろうか…。
「ごめん爆豪!私と友達になろう!」
「俺だって友達だ!つーか、俺はもうそういう体で話してたんだからな!?ひでぇよ!」
「まあ、切島は名前覚えてるけどよ。お前の名前は知らねえ」
「こいつ孤独死すればいいのに!!!」
嘘だろ!!席隣りなんだけど!?でも名前覚えてるんなら、切島とズッ友(死語)になればいいのに。気分が少し落ち着いたところで、またくじ引きをする。
『王様だーれだっ!』
「私ね」
「梅雨ちゃんか。普通そう」
「じゃあ7番の人に駄洒落でも言ってもらおうかしら」
「えげつねえのキタ!!」
「誰?誰、7番!!」
「………俺かあ」
「尾白くんがんば!!」
ウケを狙って爆豪での雰囲気をぶち壊してくれよ、テイルマン!
「まあ駄洒落って滑るのが伝統だけどな」
「ぐだぐだ言わない、シュガーマン!!」
「なまえちゃんテンション高いね」
「こいつはいつもこんなもんだろ」
「それもそっかぁ」
「お茶子と障子失礼じゃね?ね?」
「"久し振りに帰った家は、何だか騒々しかった。いつもなら私に何も関心を持たなかったのに、今日ばかりは『ゆっくりしていきなさい』と優しい言葉をかけてくれた。"」
尾白がスラスラと言っていくが、なんだこれ。小説?
「"『あの…』私はあのことを言おうとしたが、母は嬉しそうにお茶を淹れてくれた。『あんたがいなくなってからね、私寂しくってね……』母がそんなことを思ってくれていたなんて思わなかったから、私は嬉しかったけれど、ただ会いに来ただけではない。話そうとしたとき、襖が勢いよく開いた"」
長い。長いよ尾白。でも何となく気になる展開だね、ところで駄洒落はいつ出てくるの?尾白が意外と演技派で私はびっくりだよ!
「"『お母さんお金貸して!』妹だった。私をじろりと睨んで、母に泣きついた。『私の彼氏がお金に困ってるの!可哀想でしょ!?』『あんたに貸す金なんてもうないよ!お姉ちゃんを見習いなさい!こんな土産までくれて…』母が私の持ってきたお菓子を妹に見せた。そんなに妹がお金を借りていたとは知らなかったが、私とてただ会いに来ただけではないのだ。しかし、母は煩わしそうだが、妹と違う部屋に行ってしまった。閑散とした部屋に私一人が残された…。"」
どういう家庭なんだ……どういう設定なんだよマジで。
「"家無くなったって…言えなくなった"」
……………。ほう。
『王様だぁーれだ!』
「俺だ」
「常闇かー」
「何が来るのか一番読めねえヤツ来た」
「そうだな……。じゃあ、1番が17番に壁ドンをしろ」
「まさかの!?」
「今何か天からの啓示があった。"そろそろラブ展開をして終わらせろ"とのことだ」
「どういう神様!?それ絶対どっかのクラスの、テレパス野郎だろ!!」
「男子二人来い…男子二人来い…!」
「また轟・緑谷の二の舞を起こす気かみょうじ!!」
つーか、待てよ。バカ。1番私じゃね?
「17番誰!?」
「みょうじ1番?」
「よかったですわ!私17番ですの!」
「百合展開キタ!!」
「峰田うるっさい」
峰田にヤジられながら、百と壁際まで移動する。女の子でよかったー! 視界の端で、滑るも何も、無かったことにされた尾白に、瀬呂が優しく「どんまい」と声をかけていた。普段は言われる側だからか、ちょっと笑ってるけどね。
「ちょ、ちょっとドキドキするなあ〜〜っと、見せかけての蝉ドン!!」
「怖ぇ!!」
「ちょっと…理解できませんわね……」
「うっひょおおおおパンツ見えんじゃねこれは!!」
「降りよう」
「そうした方が身のためだね」
ラブ展開には持ち込まないぜ!!
「じゃあ次で最後かなー」
『王様だーれだっ!』
「僕はいつでもキングだよ☆プリンスと呼ぶ方が正しいけどね」
「わかりにくい」
「青山何命令する?」
「そうだね…。僕の美しいところを3つ言ってもらおうかな。3番の人にね!」
「うわー、私かー!」
「芦戸どんまい!!」
瀬呂イキイキしてんな………。三奈は、10分ほどかけてようやく3つ言えた。目を死なせながら。気持ちはわかるけど、……まあ、青山くんが満足そうだからいっかあ。
「君は僕のフォロワーかい?見事正解だね☆」
「……うん、もう、それでいいや」
三奈ーーっ!死ぬなー!
と、言うところで終わった。王様ゲーム楽しいなー。微妙な空気と化して、公開処刑化するのも醍醐味だよね。ベスト公開処刑は尾白かな。その次が緑谷と轟かな。百すごいよね。二人も公開処刑送りにしたし、強い。
あとこの一件で私は爆豪にすごい睨まれるようになった。前に足を引っ掛けられて転ばされたとき、「友達だろ。からかってんだよ」と、おおよそ友達に向けるべきではない極悪人の顔をして言った。切島には普通にするのにくっそぉ。