乙女心と電子音

※小ネタ「オールマイトのセコム」派生。読んでなくても大丈夫です。



「………はあ」
「どうしたんですか?」
「ちょっと聞いてよ、緑谷少年…」

今日のオールマイトは様子がおかしかった。覇気がなく、溜め息をずっとついている。オールマイトがこんなになるなんて何があったんだろうかと、うずうずしてしまい、聞いてみた。

「私の部下のことなんだけどね…」

オールマイトには、今巷で話題沸騰中の、サイバーヒーロー"エレクトロン"という秘書さんがいる。大体オールマイトの携帯の中に住んでいて、三次元に出てくることはあまり無いんだとか。主な活動はインターネット上で起こる犯罪の取り締まりや、閉じ込められてしまった人を助けるために機械に侵入して、出入り口のゲートを開けたりしている。ネット社会となってしまった現代では一番頼もしいヒーローだ。

それだけじゃなくて、エレクトロンはMt.レディや、ミッドナイトにも負けないくらいの美人だ。表情はあまり豊かじゃないけど、意外と話もおもしろくて男女問わずファンが多い。正直オールマイトもエレクトロンを可愛がりすぎて、半分ファンなんじゃないかと思ってる。

「なまえちゃんがまた食事を断ったんだよ!ショックだよ!そんなに私信用できないかい!?なにもしないよ!!」
「外に出るのが嫌なんじゃないですかね…」
「三次元も楽しいよ!?」

オールマイトはエレクトロンに何回誘っても断られているらしく、よくこうやって悔し涙を流しつつテーブルを叩く。やっぱりオールマイトは、エレクトロンのファンなんじゃないかな………。

「そういえば、この前エンデヴァーがなまえちゃんを引き抜きたいって言ってたんだよね…」
「エンデヴァーが?!」
「ていうか!!エンデヴァーが、なまえちゃんに私の写真を食べさせてるって聞いたんだけど!!なにそれ!!ちょっと見たいと思ったのが悔しい!」
「轟くんが、エンデヴァーの写真あげてるって言ってましたよ」
「何であの子そんなもんばっかり食べてるのかな!!そんなんじゃなくて、私と美味しいフレンチでも食べに行こうよ!」

今日は一段とすごい…。

こういうとき何て言っていいかわからなくて、結局曖昧に笑いながら話を聞くだけになっている。エレクトロンも、あのオールマイトがこんなになるまで必死になっているんだから、いい加減一緒に行ってあげてもいいのに…。

「あ、オールマイトに緑谷少年。やっぱりここにいたんですね」
「ゲブォ!!」
「わっ、生エレクトロン!!」
「何で君三次元に!?珍しいじゃないか!」
「グラントリノさんとたい焼き食べに行ってました」

グラントリノとも仲いいのかこの人!!すごい!!

「これお土産です、緑谷少年」
「あ、あああありがとうございます!!」

あのエレクトロンからたい焼きもらっちゃったよ僕!!記念にこのたい焼き、写真とりたいけど校内だから携帯触っちゃだめだよね…。

「なまえちゃん私とご飯食べに行こう!奢るよ!」
「私これから仕事ですので」
「何でだい!!」

オールマイトがソファからひっくり返って落ちた。トゥルーフォームであんなに動き回って大丈夫なのかな……。

「どうして君は私の誘いだけは断るのかな!?」
「逆に、どうしてオールマイトはそんなに私と食べに行きたいんですか?」
「君に美味しいものを食べさせてあげたいんだよ!!いつもお世話になってるからさ!」
「そのお心遣いだけで十分です」
「あしらわれた!!」

エレクトロンって、本当に綺麗な人なのにメディアに出ないの勿体無いなあ。一部では「サイバーヒーローを召喚しようの会」なるものもできてるし、オールマイトを羨ましがってる声もある。確かにこんな綺麗な人が秘書なんて、ちょっと、本当にちょっと羨ましいなって……。はははは。

「では。お忙しいところ失礼しました」
「二次元に帰らないでなまえちゃん!!もっと私とおしゃべりしようじゃないか!!」
『画面越しでよければいつでも』
「あああああ戻っちゃった!!」

オールマイトが携帯を握りしめて慌てている。いつものことだなあ、と思いながらもらったたい焼きを食べた。中身はあんこじゃなくて、カスタードだった。グラントリノもエレクトロンを気に入ってるなんて、やっぱり師弟なんだなあ。

チャイムが鳴りそうだったから、意気消沈のオールマイトに挨拶をして相談室を出た。エレクトロンとオールマイトはいつもあんな調子だ。仲がいいように思えるけど…どうしてあんな頑なに断るんだろう。

『緑谷少年』
「うわああああ」
『落ち着いてください。私です』
「驚かさないでください!」

ポケットに入れている携帯からいきなり声がして、思わずこけそうになった。危ない。何度エレクトロンと話しても慣れないんだよなあ。

『緑谷少年からもオールマイトに行ってくれませんか…。毎度毎度断るのも、そろそろ心が痛いです』
「どうして断るんですか?二人とも仲良さそうに見えるのに…」
『オールマイトが嫌いな訳じゃないんですよ。その…』

画面の中でエレクトロンが恥ずかしそうに目を伏せた。今スクリーンショット撮って、オールマイトにあげようかな。そんなことしたら、きっとエレクトロンに全データごとごっそり消されそうだけど。

『インターネットを泳ぐのに、割とエネルギー使うんですよね。ずっと画像とかねだってるのはそのせいなんです。一度に食べる量がすごくて…オールマイトに幻滅されたくない………』
「お、」

僕までエレクトロンの熱いフォロワーになってしまいそうな、可愛らしい告白だった。

「オールマイトは!そんなことで幻滅するような人じゃないですよ!」
『そうですかね……。緑谷少年が言うなら…そうなんでしょうね…。じゃあ、1回だけ…い、行ってみようかな……』

後日オールマイトは、僕の手を握って「ありがとう緑谷少年!!ありがとう!!」と何度も何度も大袈裟に振った。もう僕の肩ががっくがくになるくらい激しく。エレクトロンが言ってた通り、割と大食いだったらしいが、オールマイトの財力と器はそんなに柔なものじゃない。むしろ「ギャップがあっていい!!」と大絶賛したようだ。

ちなみに、この前までオールマイトのエレクトロン話にどうしていいかわからなかった僕は、この一件で見事エレクトロンのフォロワーになり、嬉々として話を聞くようになった。

オールマイトみたいにグッズ出してくれないかなあ!!