だって所詮低俗な生物ですもの | ナノ

夜明けのイマージュ

初めて気になったのはいつだったっけ。あ、そうだ。1年生のときだ。何を話したかは覚えてないけど、轟くんが少し笑ったとき、すごくどきどきしたのは覚えてる。当たり前のことだけど、緑谷くんと体育祭で戦う前の彼は、クラスからも少し浮いていたから「轟くんも笑うんだ」って驚いた。

轟くんはいつ私のこと好きになったのかなあ。重いかなあと思って聞かなかったけど、こういうことになるんだったら聞けばよかったかもしれない。





みょうじなまえは人生で2度目の命の危険に晒されていた。強盗ヴィランは目敏くなまえの姿を捉え、個性が使えないことも知っていたのだ。刃物のようになった手を突きつけられ、見事に人質となってしまったのだ。なまえをこうするのには理由がある。銀行の中にはたくさんの客や従業員がおり、その中の誰もが個性を持っている。ヒーローのように戦闘として扱ったことはないものの、中には普通に戦える個性を持つ者もいるだろう。そう言った者たちが「俺たちだけで何とかしよう」としないように、なまえを人質の人質として捕らえたのだ。

事実、誰も手出しができない状況になっている。このままヒーローの助けを待つしかなかった。しかし外では中の様子がわからないため、透視などの個性を持つヒーローはいないかと難航していた。轟や元A組の者たちも突撃したいのは山々だが、プロになってもう何年目だよという話だ。独断はできない。まして、なまえの命がかかっているのだから。

(……さすがに、護身術とかでどうにかなる相手じゃないよなあ…)

なまえは捕まりながら、そんなことを考えていた。個性がなくても普通の人よりは戦えるが、やはり有個性相手ーーヴィランには敵わない。自殺行為と言っていいだろう。

『(……そのまま静かにお聞きください。)』
「!」

突然、なまえの頭に声が響いてきた。

『(私はテレパスヒーロー、ヘルシャフト。今の状況を教えて下さい)』

ヘルシャフトのおかげで安心できた。なまえは人質の人数と、自分が犯人に捕まっていることを伝えた。そして、

(私のことは考慮せず、何なら囮として使っていただいても構いません。人質の解放を優先してください。)
『(い、いや、それはできませんよ…!)』
(私だって元ですがヒーローです。市民を守るためなら、どうなっても構いません)

人質の中には、母親に懸命にしがみついて怯える子供もいる。家族の写真を見て今にも泣き出しそうな人もいる。そう言った人たちを優先してほしい。

そう訴えれば、横から懐かしい人の声が聞こえた。

『(それはできねえ相談だ)』
「え、」

思わず声が出てしまうほどの、思わず泣き出しそうになるほどの、聞きたくて仕方なかった声。

「(轟くん…)」

轟の声が続く。

『(お前も他の人達も全員助けるからな)』
「(……うん)」

頼もしい声が、心の中に溶けていくような気がした。