5000打リクエスト企画 | ナノ

君と俺の幸せな未来が見えます
※短編「退くのはもうやめたんだ」続編


「洗脳ってかっこいいね!!新たなヒーローが生まれそうで腕が鳴る!」


お前の個性ってなに?という、クラス替えの最初の方で絶対に起きる話題。洗脳と答えると、やっぱり敵っぽいよね、ともう聞き慣れたてしまった答えが帰ってきた。わかってた、わかってたさ。でも、耳の端の方で、そんな声が聞こえたんだ。直接会話には入っていなかったものの、周りが騒ぐから聞こえたんだろう。当時同じクラスだったみょうじさんが、友達にそう話している声が、俺を救ってくれたんだ。

みょうじさんは経営科志望だそうで、その理由は、「ヒーロー志望は競争率高すぎ。経営だったらまだなんとかなりそう。私、体力ないし」だと言う。これも別にみょうじさんと話たわけじゃない。彼女が友達に言ってたのを聞いただけ。俺がヒーローになれたら、みょうじさんにプロデュースしてほしいなあ。話したこともないのに無理かな。でも、好きなんだ。やってほしいっていう思いだけは持たせてくれ。

残念ながら合格校はわからなかった。でも、まさか、廊下で、しかも二人きりで。擦れ違うとは思わなかった。思わず逃げられないように、壁側に追い込めば、みょうじさんの顔が近くて平常心でいるのがすごく辛かった。中学では話したこともなかったのに、いきなり距離が近くて引かれなかっただろうか。

「あ、みょうじさん」
「!し、心操くん!」

あれから何度も会うけど、何かと理由をつけられて交わされてしまう。最初は嫌われたかと思ったが、その俺みたいに頬が赤いところを見ると、そういうわけではなさそうで少し嬉しかった。みょうじさんは一挙一動が可愛い。多分今日もすぐ逃げられーー

「心操くん!お願いがあるんだけど!」

る、と思ったのに、予想外の反応。しかも、俺の右手はみょうじさんの両手に包まれている。そのお願いがどんな内容なのか、俺は全然知りもしないのに、二つ返事で了承した。





「へー、模擬プロデュースね」
「そう!そうなの!普通科かヒーロー科の、ヒーロー志望の子を誘わないといけなくて、私、心操くんしか心当たりなくって!しかも、心操くんの個性ってレアじゃない?私は心操くんの個性かっこいいと思うけど、やっぱり世間の第一印象的には悪いイメージから入られるでしょ。それをプラスに変えるって私の腕が試されると思うんだよね。心操くんが協力してくれて私嬉しいよ!ありがとう!」
「うんもうお腹いっぱいです」

図書室に来て、みょうじさんの口から俺の耳に、死ぬほど嬉しい言葉が次々と入ってきた。着いて早々嬉しくて死にそうなんだけど。俺、生きてられるんだろうか。

「じゃあまず、個性についていくつか質問あるんだけど…」
「あれ?俺から詳しい話聞くんじゃないんだ。」
「心操くんの身長と体重は中学からすでに知ってるし、大体個性も分析済だよ。でも、細かいことがわからなくって…」
「え、何で…」

俺のこと気になってた、とか?

「そりゃあ経営科志望だもん!経営者になったらいっぱいヒーロー抱え込むでしょ、中学からそれの練習してたの!だから他の子のプロフィールも知ってるよ!」

柄にもなく浮き足だった心は、いとも簡単に叩かれた。好きな子の言葉は常に、飴と鞭のどちらの役目もある。中学のときも、女子が「クラスで一番かっこいいのは誰か」という話をしていて、みょうじさんの答えを聞き耳たてていると、さらっと「好みじゃないけど××くん」と答えた。彼女がそのとき言ってた奴は、確かに 俺から見ても整った容姿をしていたけど、みょうじさんにまでそう言われてんのが無性にイラついて名前を覚えていない。

「洗脳ってどうやったら解けるの?」
「俺が解くか、そうだな…。俺自身は勿論洗脳されたことがないからわかんないけど、された奴が言うには、軽い衝撃を受ければ解けるらしいよ」
「ほうほう!そういえば、心操くんはヒーローになったらバラエティーとか出る?」

個性の話からだいぶズレたな。でもそんな脈絡のないたころも可愛い。だめだ、みょうじさんの隣にいると、脳みそがどろどろに溶けてバカになる。ついでに口元のにやけも止まらない。

「…ねえ、やっぱりプロヒーローも、スキャンダルってご法度?」
「うーん、そうだねえ。相手によるかも」

俺が答えたものを、かりかりとノートにまとめていくみょうじさんに、ふとそんな質問をしてみた。この前告白したのにもう緊張を解かれていて、少しつまらなくなったからだ。やっぱりさらっと言ったのがだめだったのかな。

「…例えば、事務所の社長とか」
「うわすっごいスキャンダル〜〜!だめだよ、そんなの!心操くんかっこいいんだから、女性ファン多く付きそうだし!」

ここから一気に畳み掛けようと思ったのに、逆にこっちがやられた。かっこいい?今この子、俺のことかっこいいって言わなかった?言った本人は「まあ心操くん真面目だし、ファンもいい子が付きそうだけど…極力やめた方がいいかな。その社長が辞任しかねないし…」とぶつぶつと呟きながら、真面目に考えている。

「〜っ、……俺さ、将来みょうじさんの事務所で働きたいんだけど、」
「あ、この前も言ってたね、それ」
「さっきの質問の意味、わかる?」

社長になったみょうじさんと付き合いたいってことなんだけど。

そう言うと、みょうじさんがぴたりと固まって、次の瞬間にぼっと弾けた。顔もそうだが全身真っ赤で、「え、え、え???」と困惑している。よし、ここから一気に行くぞ。

「この前俺告白したつもりだったんだけどな…。伝わらなかったみたいだからもう一回言うね」
「え、いい、いいっ…」
「俺、みょうじさんのことが好きなんだけど。もしよかったら、みょうじさんの事務所のトップヒーローの契約を前提に、付き合ってくれない?」

もちろん支えますので。と、にやりと笑って言えば、ようやく観念したのか「………よ、よろしくお願いします…」と呟いた。可愛い。みょうじさんの顔を見ているとこっちまで照れてきて、とても熱かった。

やっと、この手に落ちてきた。



いつもご訪問していただきありがとうございます!この短編で心操くんに目覚めたと聞き、また一人心操くんファンにできたことがとても嬉しいです。心操くん可愛いですよね…! 短編続編、とても書きやすく楽しかったです。リクエストありがとうございました!これからも「疲労。」をよろしくお願いします!