ガタンガタン、と優しく揺れる車内。運良く空いていたおかげで、二人とも座ることができた。この数日で爆豪くんの印象が、怖い人→いい人→繊細な人→変な人に変わってきた。爆豪くんは、変な人だ。よくわからない。

「爆豪くんはどこに住んでるの?」
「なまえん家の近く」
「え!?う、うっそだぁ〜。だったら爆豪くんのこと知らないわけないもん」
「嘘じゃねーよ」

爆豪くんは、確かに嘘をついているようには見えない。いやあ、そんなわけないって。だってそれじゃあ同じ中学だし、でも爆豪くんなんて知らない。見たことも聞いたこともない。

「………違うクラスだったから知らねえだけじゃねーの」
「そ、そうなのかな?」

そうだとしても、廊下で擦れ違っただけでも忘れるわけがない。こんなにも印象強い見た目をしているのに。誰かから言伝てで、「爆豪くんのこと好きなの」というくらい聞いてもいいのに。爆豪くんはまたも会話のキャッチボールをやめてしまったので、それ以上何も言えなかった。

最寄り駅に着くと、爆豪くんはまた私の手を引いて歩き出した。迷いのない足取りで、私に聞くことなく家に辿り着いた。やっぱり近所に住んでいるのだろうか。この辺に“爆豪”という名字の人なんて居たっけ。

「じゃあな」

門を開けて私を敷地内に押し込み、さっと閉める。目だけで「中に入れ」と言ったのがわかった。爆豪くんがまだ居るのに中に入るなんてなぁ、と躊躇っていれば、「入れ、つってんだろーが!!耳ついてんのか!?」とキレられたので慌てて家に入る。ドアにあるガラスから外を伺うと、爆豪くんは目を細めて寂しそうな表情で、踵を返して帰っていった。

「………何で、そんな……」

表情(かお)してるの。爆豪くんって、わからないことだらけ。



翌日、学校に行くと、友達数人が携帯を出して何かをしていた。

「何してるの?」
「昔の写真見てるの」
「見てみー。この変な顔!」
「私じゃん!!」

突きつけられた画面には、みんなでふざけて撮っていたときの私の顔が写っていた。友達の酷い言い草に文句を言いつつ、他の友達にも見せてもらう。私の携帯は一度なくしちゃって、新しいものに買い換えたから古いデータがないのだ。

「え〜!ちょっとこれ送って〜!全部送って〜!!」
「はいはい。また暇なときに送ってやるから」
「ヒューマ絶対忘れる〜〜!!」
「みょうじ」
「ん?どうしたの心操くん」

きゃいきゃいと騒いでいると、心操くんに声をかけられた。何故か手を出している。

「何?」
「この前の授業のレポート。今日提出なんだけど」
「レポート?そんなのあったっけ」
「あったよ。先週帰るときに言っただろ」
「ごめん………忘れた……」
「………じゃあ、先生に言いに行って。みょうじ最近忘れ物多すぎ」
「うん………」

ーーレポート?心操くんが“ある”って言うし、実際教卓にみんなが出したレポートが積んであった。だけど、そんなのあったっけ………。ていうか、何の授業で……?

「プリント自体も無いかも……」
「ねえ、大丈夫?」
「具合でも悪いんじゃ……」
「え?う、うん、大丈夫だけど……。みんな心配しすぎじゃない?今に始まったことじゃないし……」
「それもどうかと思うけど」
「あ、そうだね。気を付けないとね」

心操くんの鋭い指摘に気が落ち込む。成績にも響くしなあ、提出物の出し忘れは。最近多くて困る。電車の時間間違えたり、宿題忘れたり、教科書忘れたり……。気持ちがふわふわしてるんだ、きっと。

「じゃあ私職員室行ってくるよ」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだし。いってきまーす」

何だよみんな過保護なんだから!嫌いじゃないけど!むしろ嬉しいけど!職員会議が始まって中に入れなくなる前に行かなくちゃいけない。廊下を走ると、眼鏡をかけた男の子に「廊下は走ってはいけないぞ!」と注意された。あいたたた。