券売機の前で愕然とした。財布の中身が少な過ぎて、買えるものがなかったからだった。思わず硬直したが、後ろの人の舌打ちで我を取り戻し、列を外れた。まだ500円くらい残ってると思ってたのに!昨日漫画買わなかったらよかった……。お昼どうしよう、と財布を見ながら思う。どれだけ財布を漁ろうとも1円すら出てこないのに、バカだ。

今日は散々だ。毎日学食はお金がかかるので、学食の日とお弁当の日を曜日ごとに分けている。 今日は友達と教室でお弁当を食べる日なのに、お弁当を忘れてしまったのだ。今から教室に戻って友達に借りても、戻ってくる頃には時間がなくなってしまう。だからといってお昼ナシはキツい……。

深い溜め息を吐くと、誰かに肩を引かれた。いきなりのことだったのでよろけてしまったけど、何とか踏みとどまる。

「やる」

そう言ったのは知らない人だった。薄い金髪で赤い目をした、強面の男の子。目の前に差し出された券に戸惑っていたら、手を持たれて無理矢理受け取らされた。

「え、あ、いいよ!これ、食べるつもりだったんでしょ!」
「……他のが食いたくなったからいらねー」
「絶対嘘だ!」
「ぐちぐち言ってねえで、さっさと食え」

ギロリと睨まれて体が固まった。男の子はずんずんと行ってしまう。

「お金!返すから!」

反応はない。ぽつりと残された私と、麻婆豆腐丼と書かれた食券。早く食べないとこれもただの紙になってしまう。ちょっと怖かったけど……いい人なのかも。そんないい人の厚意を無駄にしないように、券を渡しに行った。


「爆豪勝己?」

友達に、あの人は誰だったのかを聞いてみると、その名前を言われた。ばくごうかつき。聞いたことがない。ヒーロー科で、去年の体育祭では1位だったらしい。頭はいいしかっこいいけど、粗暴でプライドも高くて関わりづらいそうだ。

「助けてくれたんだ?」
「うん。助かったけど、びっくりしたよー。いきなり渡されるんだもん。知らない人にも優しいなんてやっぱりヒーロー科だね」
「………そうね」

一番仲のいい火雄円香(ひゆうまどか)ことヒューマが、何故か寂しそうに笑った。

「何その反応。……ああ!さては好きなんだ!」
「違うわよ」
「ええー……即答?隠さなくていいよ」
「本当に違うって」
「そう?なーんだ」

ヒューマはさばさばしていて、同い年なのにかっこいいお姉さんって感じだ。黒髪ロングのストレートが何とも妖艶で、私が男の子ならフラれちゃうだろうけど、何度だって告白しそうなほど美人だ。趣味も性格も違うのに仲良くなれたのが不思議なくらい。ピューマの個性も似合っている。

「……なまえ」
「何?」
「…………合コン、しない?」

あまりにも真面目な顔で言われたものだから、ついつい笑ってしまった。合コンって、誰と?