「爆豪くん、おはよー……」

珍しく登校時間が重なったのか、昇降口でなまえと出会った。眠そうにしてるなんて珍しい。髪を跳ねさせてそのまま、なんてことはなかった。

「ちゃんと鏡見てんのか?」
「見てるー」

フラフラと嫌な足取りで、こっちに歩いてくるなまえ。昨日何してたと聞くと、映画を観ていたと言う。映画か。映画なら……“前の”なまえも好きだったな。

「サスペンス物で……オチが気になって、ついつい……はぁあ……ねっむい……」

………何だよ、こんなとこで、そんな共通点いらねーっつーんだよ………。力任せに靴箱の扉を閉めると、なまえがビクリと体を揺らした。数回目をしばたかせると、「……怒ってる?」と聞いてきた。怒ってねーよ!

「あっ、ヒューマ!おはよー!」

おい。俺んときより元気じゃねえか。

さっきの物音ですっかり眠気を飛ばしたらしいなまえは、入ってきた火雄に向かって手を振った。火雄は音楽を聞いていてそのまま素通りして行ったが、多分聞こえてんだろうな。“前の”なまえも火雄は親友だったけど、今のなまえも気に入っているらしい。だけど、あいつは違う。火雄は今のなまえを友達だと思っていないらしい。俺にしてみれば、気持ちはわかるが、それは“前の”なまえも友達だと思っていないに等しい。なまえが好んで記憶を無くしたわけじゃない。なのに、あいつは心配の欠片もないのか?俺よりよっぽど人としてどうかと思うぜ。

「ヒューマ、最近元気ないんだよね……」
「………あっそ」
「何とかしてあげたいけど……最近誘っても断られちゃって」

なまえを大事に思ってたんなら、こいつにこんな寂しそうな顔させてやんなよ。



なまえがもう俺を選ばないとして、あいつに合うのはどんな奴がいいんだろうか。こういうしみったれた話は好きじゃねえが、他に考えることもない。なまえ以外のこと……と思っても、なまえの顔しか浮かんでこなかった。

「あっ。か、かっちゃん、おはよう……」
「………………」

デクは論外だな。

一瞥してすぐ逸らすと、「今日も機嫌悪いな……」といったような顔で、後ろの席に座った。今日もじゃねえ、今日は、だ。

「緑谷、これ言ってたやつ。朝イチで買ってきた」
「君たち!学校に余計なものは持ってきてはいけないぞ!!」
「ご、ごめん、飯田くん……!」

半分野郎は………まあ、顔はいいか。でも会話続かねえだろうな。あいつ、マイペースだしな。誰かが突っ込んでやらねえと意味のわからねえ話が続く羽目になる。メガネも同じような感じだな。

「なあ!!爆豪、名前わかんねーこれしようぜ!!」
「やろうぜ!!」
「うるせえ」

切島と上鳴か………。こいつらもダメだな。バカがバカに勉強教えられねえだろ。しょうゆ顔も、………なぁ……。ねえな。テンションは合うかもしれねえ。実際、この前のカラオケでは普通に楽しそうだったしな。でも、ダメだ。理由はよく言えねえがダメだ。

あいつも、こいつも、どいつも、全員ーーダメだ。二人きりで隣を歩いているのを想像するだけでイライラする。

「………ハッ、」

ただ理由をつけたいだけじゃねえか。だからって、好きなのはあいつじゃねえくせに。

「バカは俺の方か」