今のなまえは、見ていてこっちがハラハラするような奴だ。いつもフラフラとどこかを見ている。ちゃんと脳が働いているのかと心配になった。

「………おい、お前ちゃんと脳みそにシワ入ってんだろーな」
「は、入ってる……はず……」
「………………」
「うーっ、ごめんなさい!飲み込み悪くてごめんなさい!」

補習があるから帰れないの、とかほざきやがるコイツに、勉強を見てやっている。ついイライラして当たりのキツい言葉をぶつけてしまったが、そういえば敵の個性で記憶力が鈍っているんだった。

コイツ自身はどこまでわかっているんだろうか。何か昔事件に巻き込まれた、までは知っているみたいだが。自分だけ、なまえの両親が心配して寮に入らずに実家に帰っているのを、何の疑問も持たずにやってるからな。でも、事件の概要はよく知らないだろ。

「んん……ここが、あーで、こうだから……??」

………まあ、これはこうでいいんじゃねえか。頬杖をつきながら、一生懸命頭を捻るなまえを見た。

あの事件の被害者で、夫婦の離婚数はおよそ半分。籍を入れつつも、距離を置いて様子見をしている奴がほとんどだ。子供もいるだろうから仕方ない。記憶の戻る見込みもない現在では、こちらからはどうすることもできない。下手に動くと相手が傷つく。俺もこればっかりはどうにもできねえ。

“爆豪だって、好きなのは今のなまえじゃないでしょ。”

うるせえ。だからといって、放っとけるほど冷たかねーんだよ俺は。好きな奴が、本人も知らないままに危険に晒されているのに、全部忘れて他人に戻るなんてできない。いくら極悪人面だとか、敵っぽいとか言われたってな。………そんなにすぐ割り切れたら、俺だってどんなに楽か。

「これは!きっと!合ってるはず!」
「バカ」
「えっ、嘘」
「嘘なもんかよ」

なんっつーか、ほんとに……。イライラする。こいつは悪くねえ。悪いのはあのクソ敵だ。あいつだけは絶対に許さねえ。

ある程度教師もなまえの事情を考慮して、テストは多目に見てくれるだろうが……。こいつ本当に大丈夫か?こんなんで、ちゃんと生きていけんのか?

「………爆豪くん、帰ってもいいよ。ヒーロー科授業大変みたいだし……疲れてるんじゃないの」
「こっち気遣ってる暇あったら、一個でも公式詰め込め」
「でも」
「うっせえ。こうなりゃ、意地でも最後まで付き合ってやる」

記憶だけならまだしも、未来まで敵にくれてやらねえ。何としてでも、最悪なシナリオだけは回避してやる。だから、お前も俺に付き合えよ、なまえ。

「……うん、ありがとう………」

笑い顔は変わらない。むしろ、変わってて欲しかった。なあ、俺がお前を諦められるまで、付き合ってくれよ。