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「みなさん、おはようございます」

今日も今日とて、ヒーロー科の子達にとってはつまらない教科である数学の時間がやってきた。お昼休みの前に入っているから、30分を切る頃には、時計に目をやっている子も多い。それでも寝たりしないのはさすがヒーロー志望といったところか、勉強が苦手な子も一定数いるけど、みんな真面目だ。

「あー、みょうじ先生おはようございまーす!見てみて先生!これかわいいよね!」

元気よく挨拶をしてくれた葉隠さんが、あるストラップを見せてくれた。まだチャイムは鳴っていないからよしとしよう。

「これは………」
「"謎のうさぎさん"シリーズだよ!ゴリうさが当たったんだよね!」
「奇形だろ」
「その言い方は無いんじゃないかな、かっちゃん…」

爆豪くんが"奇形"と表するうさぎは、うさぎの顔にムキムキの両腕両足がついてるものだった………というか、

「羨ましい…」
「えっ!みょうじ先生知ってるの?」
「毎週回してるけど、まだ出ないの…」
「ええ、意外………」

尾白くんが言ったが、彼の筆箱についてるうさぎのロボットが気になる。ワルツにも手伝ってもらったのに、いつもうさ魚(うさぎの頭が魚の口から出ているもの)しか出ないから、それも羨ましい。私の視線に気づいたのか「葉隠さんにダブったから押し付けられて…」と言った。葉隠さんどれだけ持ってるの…!

「逆に私うさ魚持ってないですよ!」
「じゃあ、あげるわ。いっぱいあるの」
「それなら交換しましょ!」
「いいわ。生徒から物を貰うわけにはいかないもの」

チャイムも鳴ったことなので、気を取り直して授業に入る。私も元ヒーローなのに、劣ったわね。教室の外で聞いていた人がいるのに気づかないなんて。

「……先生ら何しとるん?」
「情報収集の訓練らしいから、みょうじ先生には言わないでおこう、麗日くん」
「えらい丸め込まれとんなぁ……」

放課後になり、プリントをまとめていると、ミッドナイトが「飲みに行かない?歓迎会も込めて」と言った。濃いメンツは人脈を繋ぐのに好都合ではあるが、経営者としての仕事が残っている。所属ヒーローの器物損害の賠償をしなくてはならないのだ。それにあまり距離を詰めたくない。特に彼らは私のファンだと言っているのだから、一ヒーローとして、私生活を覗かせる行為はしない方がいい。……ワルツが変なこと言ってそうだけどね。

「お誘いは嬉しいんですが、事務所に仕事が残っているのでこれで失礼します」
「あら……残念ねぇ」
「また機会があればお願いします」

人と関わりたくないと言っておきながら、よく一時期だけでもヒーローを務められたものだ。やはり、デスクで業務をこなす方が向いている。靴箱から外靴を出して履き替えていると、クラスから戻ってきた相澤くんと出会した。ダルそうに寝袋を抱えている。

「お先です」
「……あー、よかったらこれ…」

相澤くんがポケットから私に差し出した。

「生徒からもらったんですけど、要らないからもらってくれませんか」
「!……こ、これは………」

昼間、葉隠さんと話していたゴリうさ…!興奮を隠しつつつ礼を言う。事務所に戻ったらワルツに言おう…!

「…………みょうじ先生、都合さえあれば飲みに行きませんか」
「ああ、歓迎会の件ですか?何もなければ来週なら大丈夫と思いますが」
「歓迎会………。まぁ、それで……。マイクたちにはそう言っときます」
「お願いします。では」

相澤くんの言葉にはいろいろ含みがあったが、それよりも手元のストラップの方が気になる。やっぱりかわいいなぁ。嬉しい。