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イレイザーヘッドとプレゼント・マイクとワルツが同期なのだから、厳密に言えば、私も同期である。当時、そりゃあワルツから二人や、他のヒーロー科の生徒の話を聞いていた。が、実際に話したことなどは無かった。

私の"個性"は『ダメージ還元』。負った傷を相手に返すことができる。一撃で即死したら終わりだが、なかなかに強い個性だ。その代わり死ぬほど辛い痛みに耐えなければならないし、攻撃するために率先して受けなければならないけど。ヒーロー名は、『ダメージヒーロー・"バクロス"』。ワルツが付けたものだ。正直名前など、どうでもよかったから、深夜テンションに任せたら男性だと間違われるような名前になってしまった。

「ああ、すごいです。みょうじさんと同じ職場なんて……。SNSに載せていいですか?」
「お好きにどうぞ…?」

13号が、顔は見えないものの、嬉しそうにスマホを触った。何がそんなに嬉しいんだ…。もらった教科書を見ていたが、どうも周りの視線が気になる。もしかして、全員私のヒーロー時代を知っているのか。いや、知っていたとしても、こんなに騒ぎ立てる必要などない。

「………」

やっていけるのかな、私は……。






「今日めっちゃ先生のテンション高いね」

麗日さんの声に、みんながうんうんと頷いた。さっきの授業を担当していたセメントスが、いきなり教科書の詞を読み出して「素晴らしい!」と言い出したのには驚いた。プレゼント・マイクの声もいつもより2割増しだったし、そういえばオールマイトもテンション高かったなぁ……。相澤先生はいつも通……いや、今日は背筋も伸びてたし、キリッとしてたな……。

「何があったんだろうな。よっぽど、いいことがあったに違いない」
「でも、みんなが共通して喜ぶのなんて…」

次の授業はなんだったかな。そういえば、新しい数学の先生が来るんだったっけ。そう思った矢先、ドアが開いた。スラリとかっこいいスーツを着こなした女の人が入ってきた。他のプロヒーローとは打って違う雰囲気に、峰田くんと上鳴くんが「うっひょーーー!!」と興奮し出した。

「おはようございます。委員長、挨拶を」
「はい!」

飯田くんの号令に従うけど、みんな見たことのない先生に目だけが向いている。プロヒーローにこんな人居たっけ……。それとも、本職の教師の人を読んだのかな?

「本日から数学を担当することになりました、みょうじなまえです。今はヒーロー事務所を経営しています。本来なら、ダンスヒーロー・"ワルツ"が来ることになっていたんですが…諸事情で私が代わりに。ファンの方が居たらごめんなさいね」

ヒーロー事務所を経営……そういえば聞いたことあるな。みょうじ先生の名前は知らなかったけど、ワルツは連名で事務所を経営してるって。それがこの人だったんだ。数学の教師としてはもちろんだが、必要に応じれば経営科の方にも講義をしに行くらしい。いいな。僕もちょっと聞いてみたい。

「………ところで、関係者以外は教室から出ていただけませんか」
『ノープロブレムだ!初めての教職だろぉ!?何かわからないことがあったら、俺に聞いてくれていいからな!』
「心遣いは感謝しますが、生徒が気になって授業に集中できません。退室してください」
「大丈夫よ!こんなことで集中力が乱れるようなら、ヒーローなんて務まらないわ!」
「ヒーローでも振り返りますよさすがに」

授業参観さながら、プレゼント・マイクやミッドナイト、セメントスに相澤先生……ドアの窓から少し除いているオールマイトまで、プロヒーローが集結していた。な、何だ…!?

「みなさん、授業は」
「正直こいつらの代わりに授業受けてえ」
「正直すぎます。早く職員室にお帰りください」

みょうじ先生が顔をそらして舌打ちをしながら、「だから人前に出たくないっつってんのに……」と、悪態をついた。凝視する僕と目が合うと、にっこりと笑ったけど。瀬呂くんと耳郎さんがヒソヒソと話しているし、かっちゃんはなかなか始まらない授業に貧乏ゆすりを始めているし、峰田くんと上鳴くんはミッドナイト派かみょうじ先生派の話をしているし……。みんな、そわそわと落ち着かない感じだ。この先生…一体何者なんだろう。

「………仕方ないですね」

いきなり、みょうじ先生が自分の左手を教壇に叩き付けた。ミシミシと嫌な音が響く。手がボコボコに傷ついてるのを気にも留めず、みょうじ先生が教室の奥を見据えた。

「"損失還元"」

みょうじ先生の右手から強烈なビームが発射し、教室奥の黒板にぶち当たった。丁度プレゼント・マイクと相澤先生の間辺り。

「当てられたくなければ、教室から出ていってくださいませんかね」
「……はい」

ゾロゾロと先生たちが出ていっていく。でも、落ち込む感じではなく、何故か嬉々としていた。飯田くんが「保健室にーー」と立ち上がったが、みょうじ先生の左手は綺麗に治っていた。これがみょうじ先生の個性かぁ…!

「飯田くん、心遣いどうもありがとう。……さて、授業を始めましょうか」

にっ、笑った姿がとても綺麗だと思ったけど、廊下から先生たちの「ヒョー!!」という浮き足だった声が聞こえて、みょうじ先生の顔がまた険しくなった。みょうじ先生って、一体何者なんだろう…?