Am10:40



来ねえ。

俺はちゃんと言ったはずだ。確かに返事は聞いてねえけど、みょうじのことだから来ないことはねえだろ。壁にもたれかかって待つこと10分。待つのは嫌いだが、待たされるのも悪くない。が、どうもモブ共がうっせえな。キィキィ喚きやがって、うっせえんだよ死ね。あまりにも遅いからさすがに心配になってくる。あいつは、授業中はそんなにだが、普段の生活では抜けてるところがあるからな。敵に電車が襲われてる場合もある。番号とか知らねえからなァ…。

「ねーぇ、聞いてるの〜?」
「邪魔だブス。失せろ」
「いいじゃん。さっきから誰待ってるの?」
「答える義理はねえ」

イライラする。爆破すっぞ。何を言っても喚きたてるサルに、思わずキレたら、サルの遠方にみょうじを発見した。おどおどした様子でこっちを見ている。居るんだったら声掛けろよ!!!事故じゃなくてよかったけどな!!!


Am10:57



何でこうも腹が立つんだ。雑魚に絡まれるわ、やっぱり並ぶことになるわで耐えられねえ。だから出掛けんのは嫌いなんだよクソが。

「そういえば、爆豪くん今日誕生日なんでしょ?!あのね、一応プレゼントをね、」

苛立ちがMAXになる前に、みょうじが鞄からそれを出した。別に要らなかったのに。……これを悩みながら選んだのかと思うと、こっ恥ずかしいな。入っていたのは赤色のシャーペン。シンプルだが、これなら使っていてもクラスの奴等に怪しまれることもねえだろう。

「………さんきゅ」

みょうじが焦った顔で「ご、ごめんね!こんな安物で」と言った。安物だろうと何だろうと、まさか用意してるとは思わなかったから、何つーか……願ったり叶ったりっつーか……。

「別に、俺のこと考えながら服選んで、朝から来てくれて、2人で会ってるだけで十分だろ」

調子狂うなクソが!早く店に入らせろ。


Am11:17



女っつーのは全員、甘ったるいもんが好きだと勝手に思っていた。だからアホ面が「女子多かったんだけど、すげーうまかったぜ!」と騒いでいた店に来たんだが、みょうじが頼んだのはハンバーガーで。これなら別にこんな並ばなくても、他の店でよかったんじゃねえか?っつーか、何でこいつこんなに俺の方見てんだよ。ふざけんな目ェ逸らせ。「見てたろ」と言っても、「見てないよ!」としか返してこねえ。言い逃れようったって無駄だからな!

「てめぇに見られると緊張するからやめろ」
「そんなご謙遜を…」

こっちの気も知らねえでこいつは…!!


Am11:24



こいつ食い方豪快すぎるだろ。鼻にケチャップつけて、恥ずかしそうに拭いて。ナイフとフォークを使っても上手く使えずに、やっぱり恥ずかしそうに俯いて。でもうまそうに食ってる。そういう顔を見ると、我慢して並んだ甲斐があった。もう2度とごめんだけどな。30分も待てるかよ。

「そ、そんなに見ないで」
「見てねえ」
「見てたよ!」
「見てねえよ。早く食え」

さっき散々見てきたくせに。俺だって見ていいだろ。勿体ぶってんじゃねえ。


Pm12:13



やっとみょうじが諦めたっつーのに、早速邪魔が入りやがった。アホ面と切島とデクと、丸顔と黒目とイヤホンだ。暇人か。俺らどう見たって忙しいだろうが、空気を読め。みょうじと手を繋いでるのを見て、やいやいと捲し立てる。ここが教室だったら爆破してやってんのに。みょうじもみょうじで、付き合っているのかと責められていた。余計なこと言ってんじゃねえ。それで何でこいつは否定しねえんだ。諦めたように笑ってんじゃねえ。誤解してもいいのかよ。

「ちげーよ。付き合ってねえ」

アホ面が文句を言うが、事実なんだから仕方ねえだろ。みょうじが手を離そうと、上下に振りまくったり横目で訴えかけてくるが、言わない限りは無視だ、無視。絶対離してやらねーからな。

何故かカラオケに行くことになった。マジでふざけんな。何でてめーらと一緒に居なくちゃなんねえんだよ。まあまあと宥められて、部屋に着くなりアホ面にぬいぐるみを渡された。俺に似合わねえと思うなら何で渡した。こういうのが似合うといや………。首根っこを引っ付かんでみょうじに押し付けた。丸顔らの言葉に、ぬいぐるみに手を回す。

「よっしゃ!爆豪シャッターチャンス!」

言われなくてもわかってるっつーの。くそ、どうやって連写すりゃあいいんだ。


Pm02:48



ったく、何でデクと歌わなきゃなんねーんだよ。……みょうじが居なかったら即行で帰るか、男3人のうち誰かを問答無用で爆破して帰るぞ。黒目、動画録ってんじゃねえ。もうみょうじもいいだろ。行く当てなんかねーけど、このまま一緒に居ると終わるまでこのメンツじゃねえか。

「行くぞ」
「え、どっどこに…」
「せっかくお前だけ誘ったのに、これじゃ意味ねえだろうが」

みょうじが言葉に詰まった。顔赤くさせんな。立ち上がると、察したのかぬいぐるみを押し付けながら、「はいはい。邪魔して悪かったですねー」と言いながら俺とみょうじを追い出した。わかってんなら連れてきてんじゃねえ。楽しそうにしてたから何も言わねえけど、時間を無駄に使った気がすんだよ。

正直、こいつには来てもらっただけで十分だ。金は出さなくていいっつってんのに、何でこうも頑なに拒否してくんだよ。普通こういうのは嬉しいんじゃねえのか。

「せっかく楽しいのに、こんなことされると、次行くとき行きにくくなるからやめてよ…」

………。は、こいつ、いきなり何言ってやがる。嘘つけ、ずっと戸惑った顔してたくせに。でも、手繋いでもあいつらに会う前は、振り払ったりもしなかったしな……。無駄にいい気にさせんなよ。楽しいとか、くそ、俺も楽しいわボケが。

「…………悪い」
「……」

みょうじが俯いて、俺が空中を見つめる。むず痒いし、いつもと違うし…でも何つーか、こういうのも悪くはねえな。


Pm03:17



ぶっ殺す。



Pm04:22



反省文だか説教だか、んなもん知らねえ。みょうじに手出しやがった上に、せっかくいい雰囲気だったのに邪魔しやがった。空気読めよ社会のゴミが!!死ね!!やっと2人きりに戻ったと思えば、そろそろみょうじが電車に乗らないといけない時間だった。誕生日なんだからいい思いさせろよ。やっぱり敵はろくなことしねえな。

「もう捕まらないし!!次は爆豪くんみたいに、ドーンとやってやる!!」

出来ねえくせにそう言うもんだから、思わず笑っちまった。ドーンとやってやる、ってなんだよ。そういう個性でもないのによ。こんなに機嫌がいいのは久しぶりだ。まあ、さっきまでが異常に殺気立っていただけだが。………あ?普段はもっと穏やかだろうが。

「おい、携帯出せ」
「え、あぁ、はい」

携帯出せっつっただけなのに、渡してくるとか危機管理能力あんのかこいつ。まぁいい。アプリを開いて連絡先をもらった。みょうじは目を丸くしているが、お前が素直に渡してきたせいだ。これであいつらに茶化されずに、裏でやり取りができる。アホ面とかうっせえからな。名前の通り、アホ面で絡んできやがる。

みょうじがやけに顔を赤くしながら、画面を見つめていた。


Pm04:54



女なんてうるさいだけの、悪いイメージしかなかったが、この1年で大きく変わった。こんな気持ちになったのは初めてだ。何としてでも手に入れたい。今は手に入れられなくても、もっと近くで見てみたかった。中学のときにツレがやたらうるさく「彼女が欲しい」と騒いでいたが、割といいもんだな。今日だってみょうじ自身に対して苛立つことなどなかった。自分が自分でないような、気持ち悪い感じもしなくもないが、それでも悪くはない。初めて握った女の手は、一回り小さくてこっ恥ずかしかった。出来ることなら、もっと触れてみたいとさえ思う。

「そういえば、言い忘れてたんだけどさ、誕生日おめでとう」

次は、お前の誕生日に俺が言ってやるよ。

「そういえば、俺も言い忘れてたわ」
「ん、何?」

いいか。これ聞いたら、絶対てめぇを落として、逃がしてやらねえからな。そのつもりで聞けよ。

「お前が好きだ」


Pm04:58



みょうじが乗った電車が消えていく。1日ずっと一緒にいる、っていうのは、想像以上に大きいもんだ。たった1日、たった数時間だけだったのに、もう繋ぐ手がないと思うと調子が狂う。

あのみょうじの呆けた顔。マヌケ面にもほどがある。月曜日はもっと、可愛いげのある反応しろよ、なまえ。


Pm05:00