Heralist


私には友達がいません。
いつの間にか教室の隅に追いやられた私の机には、いつも罵りの言葉が書かれています。二つずつ並んだ机。けれども私の隣に座る人は誰もいません。机の中やロッカーに私物を入れておくと捨てられてしまうので、私はいつも重たい鞄を持っています。上履きも毎日持ち帰らなければならないのでとても大変です。授業中は私が発言すると教室は静まりかえります。私の声が震えてひっくりかえってしまうとクスクス、クスクスと笑い声が聞こえてくるのです。体育の時間にはよく怪我をします。運動が得意ではない私は、何処からか飛んでくるボールを避けることができません。体育倉庫に道具を片づけに行ったらそのまま閉じられてしまった事もありました。
私はいじめられているようです。
理由は解りません。もしかしたら、知らず知らずのうちに私が何かをしてしまったのかもしれません。そんな事にも気が付くことのできない頭の悪さが原因なのかもしれません。
耐えきれなくなって家族に助けを求めたこともありました。
「根性なし」
「恥ずかしい事を言わないで」
「どうして他の子と同じようにできないの」
「弱音を吐くな」
家族の言葉は、私の助けを求め伸ばす腕を綺麗に溶かしてしまいました。

とても苦しいです。とてもつらいです。



昨日のように今日が来て、また私は教室に来ました。
けれどもその日はいつもと教室の空気が少し違うのです。
「それじゃあ、今まで入院してたの?」
「体はもう平気なの?」
「うん。今日からはちゃんと通えるからよろしくね」
「かわいい!」
「ベリーショート似合うね」
「えへへ、お兄ちゃんの真似っこだよ」
「へぇ、お兄ちゃんいるんだ!」
教室の一番隅の席。いつも私が一人で座っている机の周りには人だかりができていました。その中心には見覚えのない一人の女生徒。癖のある短い髪と笑った表情がとても愛らしい人です。転入生でしょうか。ほんの少し、自分の心臓がいつもより早く動いているような気がします。
一歩、近づくと数人が私の方を見ました。それだけで私は立ち止まってしまいます。
ガタガタと机を動かす音。人の壁から吐き出される私の汚い机。
「邪魔」
大きくもない、怒鳴りつけるでもないその一言で、私の肩は大きく震えてしまうのです。
「すみません」
私の小さな声が聞こえたのでしょうか。舌を鳴らした女生徒が私から視線を逸らしたと同時に、彼女がゆっくりと立ち上がったのです。一体何をするのかとその場にいる人全員の視線を集めた彼女は、私の前まで歩き吐き出された汚い机をその細い腕で引きづり元の位置まで、彼女の綺麗な机の隣まで戻しました。
そして私に笑いかけるのです。

「今日からよろしくね」



私に、笑いかけてくれました。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -