Heralist


暑い。とにかく暑い。
今の季節を日本の人々は梅雨と呼び、風流だとかなんとかで良いものみたいに言われている。だけど実際に梅雨を喜ぶ人なんて居るのか私は疑問でしょうがない。窓の外に見える中庭の木々は空から降り注ぐ雨にユラユラと揺れている。
今日もじめじめむしむし。ジワリと汗が滲みブラウスが肌に張り付いて気持ちが悪い。雨のせいで頭も痛いし、とにかく不快だ。

「なまえー?」
「あー、なんだ文貴か」
「なんだって酷い…。まぁいいや、頭痛いの?」
「うーん…」

机にへばりつくようにしていた私に声をかけてきたのは文貴。何故か女子ではなく私はコイツとつるんでいる。付き合ってるとかいう噂はもちろん起ったが、私と文貴は本当に単なる友人だ。友達以上恋人未満。なんて理想的な男女の関係なのだろう。
ガタリと音をたてて文貴は前の席に座った。すでに文貴の第二の席と化しているそこの本来の所有者、 花井は大抵阿部の隣に座っている。

「見て見て、ホラ」
「うお!ポッキーじゃん、さすが文貴」
「もっと褒めていいんだぜ」
「くたばれ」

「酷いこと言う人にはあげません」などと言い、手を伸ばして愛しのポッキーを遠くにやる文貴。「調子乗ってんじゃねぇぞゴラ」と、どこぞのいじめっ子のような台詞を言えば、ビクリと肩を揺らした文貴がソロソロと袋を開けた。そんなんでいいのか、お前は。

「どうぞー」
「どうもどうも。…って、うわコレ暑さでべちゃべちゃになってんじゃん。くっついちゃってるし…」
「いやいやいや、オレのせいじゃないから。そんな冷たい目で見んなって!」
「分かってるけどさぁ…こう、なんかムシャクシャするし」
「理不尽…」

ポソリと涙目で呟き、なんとか取り出したドロドロポッキーの先端をポリッとかじる文貴。その姿がなんだかとても情けなくって可愛いとか思ってしまう私は病気なのだろうか。恋とは違う…なんだろう、母性本能?子供というよりは弟か。
そんなくだらない考えは口の中に広がった甘い風味に溶けてしまった。文貴がポッキーを押し込んだのだ。

「なぁに考えてんの?」
「文貴イズ弟」
「ええっ、オレ二人も姉ちゃん要らないんだけど…」
そういえば文貴にはお姉さんがいたなぁ、なんて思いつつポリポリとポッキーを短くしていく。ああ、なんて美味しいんだろうか、ポッキー。ポッキーを発明した人は偉人だ。脳内でポッキーを大絶賛していると、ふと文貴がポッキーをくわえた状態で待機していることに気付いた。あれか、ポッキーゲームがしたいと。
言葉で言われなくても分かるっていうのは考えていることが似たり寄ったりだってことなのだろうか。わざわざチョコが先までついている方をコッチに向けている文貴は心底バカだと思う。そして素直にくわえた私もバカの仲間入りだ。
ポリポリポリポリ。うん、美味美味。呑気に食べ進めれば、もちろん文貴の顔は近づく。あ、触れる。あーあ、触っちゃった。ファーストキスなんだけどなぁ。まぁいっか。

さて、今私たちがくわえているポッキーはおそらく2pぐらいだ。思いっきりキスしているのはこの際気にしないことにして、私はなんとしてでもこの2pを自分の胃に納めたい。歯を立てれば折れて半分になってしまうから、なんとか舌を使って取り込もうとするけれどやっぱり文貴も同じ考えのようで、同じ方法で応戦してきた。
しばらくこの攻防戦を続けていたが、さすがに息がもたなくなって顔を離す。口の中には甘いチョコレートが充満しているけれど、お目当ての本体は無い。ああ、チクショー負けた。


「ああもう頑張ったのに…」
「うへ、チョコ全部溶けてただの湿った何かになってる…」
「え、マジで?ざまあみろ」
「うわムカつく!もう一回やろーぜ」
「次は負けないよ?」




(なんなんだアイツら…っ!)
(落ち着け阿部、気まずいのは皆同じだ)


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