Heralist


「寒い」

玄関の外で座り込んでいた幼なじみは私を見上げてそう訴えた。身につけているのは趣味の悪い半袖のTシャツ。しかもよく見ると若干濡れている。夏の終わり、秋の始め。いくら未だに日差しの強い季節だとしても、太陽がとっくに沈んだこの時間にそんな格好をしていれば寒いに決まっているというのに。

「何してんの」

素直に疑問を口にする。「よいしょ」なんて掛け声を出して立ち上がった孝介は、その大きな目を私に向ける。相変わらず男にしては可愛い顔をしてるな、なんて本人には口が裂けても言えないような考えが頭をよぎった。ほとんど話さなくなった今ではあまり関係は無いけれど、中学卒業間際に私が「可愛い」と言ったら卒業式まで口を聞いてもらえなかったというエピソードがある。それほど孝介は自分の顔にコンプレックスがあるらしい。
私にとっては私より可愛い孝介がコンプレックスだ、なんてそれこそ言えない。

「なまえのこと待ってた」
「……はい?」

得意の仏頂面でジッと見られれば、素直な私の心臓はそのリズムを早くする。孝介が私を待っていた。どうして?グルグルと思考が低空飛行をしていると再び孝介が口を開いく。

「ジョギングしてたら兄貴に鍵閉められたんだよ。家誰も居ねぇし携帯も財布もねぇし…寒いしで」
「あー、はいはい」

それを聞いて治まる鼓動。そりゃあそうだ。用も無いのに孝介が私の家に来るわけがない。孝介の横を通り抜けて玄関を開けるために鍵を取り出す。…取り出す。

「……」
「おい?」
「…孝介、ごめん」
「…お前まさか」
「私も閉め出し仲間になりました」

てへ、なんて仕草をして見せても突き刺さる冷たい視線。そりゃあずっと待っててやっと帰ってきた私が役に立たないだなんてあんまりだとは思う。だけど私だって閉め出しくらっているのだし、全部私が悪い訳じゃないだろう。
あからさまに深いため息をついて孝介は再び座り込んだ。私もカバンを漁りながらその横に座る。いつもカバンに鍵は入れているはずだ。落としていなければ入っているはずなのにソレが見つからない。
ふと一人分開いた私と孝介の間を見ると、肩が触れ合うくらい近く座っていた昔を思い出してなんだか切なくなった。幼なじみと言っても私は女で孝介は男。相手を意識するなと言う方が無理なわけで、いつの間にか私は孝介のことを好きになっていた。
だって孝介、可愛いしかっこいいし優しいし頼りになるし…。あれっ、何言ってんだ私。
ブンブンと首を振って再びカバンに手を突っ込むと、カツリと何かが指先に触れた。良かった、この感触はおそらく鍵だ。

「孝介、」
「寒い」

鍵あったよ。そう続くはずだった言葉は喉につかえて出てこなかった。
肩にもたれるようにある孝介の頭。背中に回された腕。汗の匂いに仄かに混じるシャンプーの香り。
どうやら私は、



抱き締められたようです。




(あったけぇ…)
(何これ…どういうこと!?)


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