「どーも皆様、雑用スタッフのティモシー・リックでございまーす! いえーい!」
賑やかす声と同時にクラッカーの紐を引く。パンッという乾いた破裂音が響き、皆が座っている方向にカラフルな紙テープが舞った。音に驚いてかビクッと肩を揺らす人が数名。他にも眉を顰める人や楽しそうに微笑む人、声を出して笑う人もいるけれど、予想していたより反応が薄い。真面目な人が多いのだろうか。もっとどよめくなり野次を飛ばすなりなんなりしてもいいというのに。
奥の席まで見渡すようにピンと背筋を伸ばすと、色々な表情、顔、髪や肌の色が見えた。こちらからしっかり見えるということは、自分も見てもらえているということだ。
そしてなにやら頭に手を当てている男が口を開いた。
――掃除?はて、なんのことだかサッパリわからない。
「愛称はティム。家族は大黒柱で優しいリチャードに、気が強い長女のドロシー、無口で賢いブラッド、怖がりな甘えん坊ロニー、大きくてのんびり屋なエドワード、やんちゃな末っ子ベラ、それから俺っていう6人……いや、2人と4匹家族かな。皆フサフサしてて俺とは似てないんだけど、そこんとこどう思う?」
冗談を交えつつ、なんとなく目についたアジア人に話をふってみると、その人は少し目を泳がせて困ったように笑った。それに合わせて俺もニッと笑う。この反応は日本人か台湾の人か……自己紹介を聞くのが楽しみだ。
「そんなフクザツな家庭環境でも強く明るく健やかに育った俺に心打たれた人がいたら遠慮なく飯奢ってくれよ! この辺りにある美味い店でも教えてやるからさ」
そう言って胸を軽く叩く。
この場所に来た回数はまだまだ少ないけれど、それでもこの近辺の地理は既に把握している。隠れた名店も自慢の諜報、捜査能力で発見済み。
情報収集の能力には自信がある。俺から何かを隠そうと思うのなら、俺をこの世から消し去るくらいの気持ちでなくては隠し通す事は難しいだろう。なんて、ただ噂話好きで好奇心旺盛なのが俺。一度気になったことは気が済むまで追いたくなる性分なのだ。
今だってもう、ここに集まっているメンバーが気になって仕方が無い。このまま自分自身の事を語るよりも、他人の話を聞き出してちゃちゃを入れる方が楽しいような気がする。
一度そう思ってしまえば、早く自分の自己紹介を終わらせたくなる。必要な事だけを手短に話して次に回してしまおう。
「細かい作業も頭使う事も割と得意! 歌も大好きだし、絵も料理も裁縫もできまーす。ご覧の通りトークにも自信あり! 接客も経験してるからなんならクレーム対応もできるし、機嫌の悪いお客様も帰る時には笑顔にしちゃったりなんかもできるから、まぁなんか困った事があったらなんでも相談しろよな。その他、プライベートの事でも俺にナイショとか無し無し! まかせろって、俺めっちゃ口が堅いから。まぁそんな感じで何でもできる優秀なスタッフが俺……あ、でも掃除とか事務とかめんどくせぇタイプの仕事はクギリがやってくれるみたいだし、そっちにヨロシク! そんで公演日はスピーディー且つ軽やかで華やかな俺がもぎりやりまーす!」
丁寧に編んである三つ編みを指で弾いて笑えば、ちらほらと拍手がおこる。それぞれの顔を見てみると、苦笑していたり、ため息をついていたり、人懐こい笑顔をうかべていたりと、一人として同じ顔をしている人は居なかった。
個性があってよろしい、などと、心の中で深く頷く。
「つーことで、これからよろしくな!」
新しい環境、新しい仲間達との新たな生活。期待に胸が高鳴るのを感じた。
(えっ、掃除しなきゃダメ?)