可能性の話






切原に告白はされたものの、私たちは気まずくなることもなく相変わらず仲のいい友人として過ごしていた。

学校でゆっくりと私たちが付き合っているという噂が広まりつつあることは、私も切原も知る由もなかった。


それから一月後、兄が入院した。

そんなに重い症状ではないということを聞き安堵したが、いつになっても退院しない兄を不思議に思って、母を問いただしたところ病名が発覚し、その病のせいで兄はテニスが出来なくなるかもしれないということを聞いた。




あの、絶望を兄も味わっているのか・・・そう思うと居ても立っても居れず病院に足を運んだ。



兄の病室の前に立ち、考える。
しばらく兄を避けていた私にとって、何と声を掛けていいかが分からなかったのだ。



私は、兄に会う前に兄の主治医に会うことにした。
主治医によると、兄がテニスができなくなる確率は100パーセントでは無いという。
手術を受ければ、なおる可能性があってテニスもいずれ出来るようになるかもしれないとのことだ。
ただその確率も絶対とは言えず、手術をしてリハビリを頑張っても完治しない可能性もある、と主治医は言っていた。





私は、手術を迷っている兄が不思議に思えた。
まだ希望があり、ゼロパーセントではないのに、またテニスを出来るかもしれないのに・・・。

あれだけテニスが大好きで生き甲斐みたいな人が何を悩むことがあるのだろうか。


手術という選択肢を貰えず、選手生命を経たれた私に取っては、より理解できなかった。



 

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