いつも笑顔で






母さんの初めての姿に、俺も沙耶も驚いて呆然としていた。




息子の俺が言うのもあれだが、母さんはすごく優しい。


母としての当たり前の厳しさは持ち合わしているものの、慈愛に満ちたという表現がピッタリ合うような人なのだ。






そんな母さんが、初めて沙耶に手をあげ、しかも涙を流していた。










「・・・・・な、なんで・・・・?・・・」



「・・・・沙耶・・・。言葉は凶器なのよ・・・お母さんが沙耶を叩いた痛み以上に、その言葉は色んな人を傷つけるわ。お母さんも、お父さんも、なまえも。」



「・・・・・なまえばかっり・・・・いつもなまえばっかりっ!!!!私はお母さんの娘じゃないの!?」



「・・・ええ。沙耶は私の大切な娘よ。沙耶のことを傷つける人は誰であってもお母さん絶対許さない。そして、なまえも私の娘よ。私の娘を傷つけるのは、誰であっても許さないわ。自分の娘でもね。」




「・・・・・・・・。」




「なまえには黙っててって言われたんだけど、これ以上無意味な兄弟喧嘩をお母さん見てられないから言うわ。・・・・・・・・なまえ、怪我したのよ。」








「「・・・・・・は?・・・・・」」







「精市のことが好きだった女の子に足を何度も殴られて、スケートできなくなっちゃの・・・。あの子、自分がそんな目にあっても私とお父さんと沙耶に申し訳ないって言ってた・・・・・・。精市にも心配かけたくないって内緒にしてって頼まれたわ。・・・・・・・お医者さんにスケートは出来ないって言われたんだけど、それからもしばらく頑張って大会に出たのよ。諦めたくないって・・・。でも、結果は厳しくてね・・・・・・。あの子、なんだかんだでスケート大好きだったでしょ?・・・・・だからそれからは見てられなくて・・・・。そんなとき、いまなまえが所属している事務所のマネージャーさんにあの子スカウトされてね。・・・・・ほら、あのこ根は真面目でしょ?だからずっと断ってたんだけど、お母さんなまえに何か他の目標を見つけて欲しくて、やってみたら?って言ったのよ・・・。そしたら、なまえがんばり屋さんだから、人気者になっちゃって・・・ふふっ」









「「・・・・・・・・・・・」」










「・・・・・だから、沙耶も精市も応援してあげて?・・・・あの子、最近やっと笑ってくれるようになったの・・・・・・強がってるだけかもしれないけど・・・・・お母さん、沙耶にも精市にも、なまえにも、いつも笑っていて欲しいの。」










目に涙を溜めながら微笑む母さんに、俺も沙耶も何も言うことは出来なかった。





 

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