はじめての






リハビリに励んだおかげか、少しずつ身体が思うように動くようになって、後もう少しすればテニスに復活できるか否かというところまで、俺は回復していた。





いつものようにリハビリを終えて、母と沙耶と病室で談話していたときだった。



母は俺の好物の梨を剥いてくれていて、沙耶がつまらなさそうにテレビの電源を入れると話題のドラマの再放送がやっていてなまえが出ていて、キスシーンを繰り広げていた。





「なにこれ、あいつこんなこともやってんの・・・」


「こら沙耶、お姉ちゃんをあいつなんて呼ばないの。お母さんこのドラマ面白くて何回も見ちゃった。ふふっ」


「・・・・・最近、なまえはどうしてるの?」


「どうって、あの人家でちゃったし会ってない。」





「・・・・・は?出たって・・・・・どういうこと、母さん。」



「・・・精市が退院したら言うつもりだったのよ?・・・なまえ、お仕事に集中したいって東京で一人暮らし始めたのよ。この前、お父さんと会いにいってご飯食べたのよ。お仕事も順調みたいだし元気そうだったわ。」



「・・・・・相変わらず、自分勝手な人」



「沙耶っ!いい加減にしなさい!」



「だって本当のことじゃんっ!だいたいお母さんもお父さんもあの人に甘いよっ!あんなに簡単にスケートやめて、あんなみっともないことやってるのにっ」



「みっともなくなんかないわ。なまえは、一生懸命自分の人生を見つけようとしてるの。お母さんは一生懸命なにかに取り組んでる人をみっともないなんて、これっぽっちも思わないわ!」



「はっ!自分の人生!?私のスケート人生を奪っておいて、自分の人生!?ふざけないでよっ!だいたいお父さんがあんな人家に連れてくるからっ!!!」










パシン、と大きく乾いた音が病室に響いたと思えば、母さんが静かに泣いていた。







 

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