02 [ 2/8 ]






あ、でもこの人は幸村君じゃないから神の子ではないんだっけ。
でもそれにしては何から何まで幸村君な彼をじっと見つめながらふと思う。

あれ・・・・姿形はさることながら、声色や口調までも幸村君じゃないか。
・・・それに彼のネクタイや制服も、幸村君が通っている学校のものそのものにそっくりだ。
幸村君が好きだった私は、自分の思い出は忘れようとも幸村君が通う学校の詳細は忘れた事がない。
授業中に何度幸村君をノートに描いた事か。もちろん色付きで。

ここまできて、私の中でようやく焦りが出はじめる。うっすら嫌な汗が噴き出してくるのを感じる。
疑惑をすぐにでも確かめようと、あわてて机の中のものを全て机の上に出すと、プリントと教科書、それに生徒手帳がでてきた。
そしてそこには立海大付属中学校と記入されていた。

へ?立海?立海ってあの?幸村君とか真田君とかいる、あの立海?テニスの?
・・・・ははははうそうそ〜そんなことあるわけ・・・

全身から嫌な汗が噴き出している。

ていうか何で私はここに居るんだ!?
ここは立海であるかそうじゃないか以前に、25歳でOLの私が学校にいて言い訳がない。
必死になって、なんでいまここに座っている状況に至ったのか思い出すために記憶を探る。



そうそうまず気付いたら廊下歩いてて・・・?あれ?そもそもなんでいきなり廊下歩いてたんだ?というかそれ以上に廊下以前の近い記憶が全く以てない。皆無である。

・・・あ!そうだ!家でテレビを見ていた記憶はある・・・が、それが昨日なのか今朝なのか、はたまた数日前の記憶なのか分からない。
やばいやばい何だこれ。嫌な夢でも見ているのだろうか・・・夢であってほしい!そうすれば幸村君にだってセクハラの一つや二つやってやる!



「・・・maruさん?急に慌ててどうしたの?もしかして忘れ物でもした?」

ぐるっと教室全体を見回し、おずおずともう一度右隣をみる。

そこには、先ほどの不思議そうな表情にやや驚きを足した顔をした幸村君似の彼がいた。
彼も私をまねて教室全体を見回してから、大丈夫?と驚きながらも心配そうに焦る私に尋ねてくる。
そんな優しい彼を再びまじまじと見つめる。
陶器のような毛穴レスの卵肌に、綺麗な藍色のつややかなウェーブヘアー。

ここが本当に立海だとして、ということは彼はやっぱり、あの幸村精市なのだろうか。
それにさっき俺以外の幸村って・・・

「・・・・・?やっぱり具合悪い?なんだか顔色も良くな」

『あ、あの!す、す、すいません・・・し、し、下の名前っ・・・聞いても・・・・・・良い・・・ですか?』

彼の話を遮って初めて声を出した私に彼は、驚いた顔にやや拗ねたような表情を混ぜながら

「・・・なに、maruさん。俺の名前忘れたの?・・・なにそれ・・・・・」

そう言った彼の瞳が一瞬揺れたのを見て私は彼を傷つけてしまったのかもしれないと思い彼を見つめると、彼の瞳のなかに静かな怒りが見えた気がした。
もしかしたら私が知らないだけで私と彼は親しかったのだろうか。だったらやはり彼を怒らせてしまったかもしれない。
ていうか幸村君と親しいなんてなんなんだこの私!うらやましいな私!
なんて思いつつも目線がキツくなった幸村君に対して少し慌ててしまう。

『あ、あの、、も、もしか、、して、、。』

「・・・・」

『せ、せいいち・・・くん・・・でし・・た・・・か?』

私がそういい終わると彼は一瞬だけ眼を見開き少しほほを染め、でもどこか安心したような雰囲気で、あたり、と言いながら私のおでこをシャーペンで小突いてきた。

「もう、驚いた。今朝のmaruさん変だよ。勉強のし過ぎじゃない?どこぞの幸村に似てるだの、俺の名前がなんだのって。本当に名前忘れてたら一週間は口聞かないところだよ、まったく。新手のゲームかい?

・・・でも、初めて精市って名前で呼んでくれたから、許してあげる。』

そういってハニカミながら、それでも綺麗な微笑みを向けてくる彼に私は思わずカァッと顔があつくなる。
ていうかやっぱり、あの幸村精市なんだ!!!!信じられない!!私、幸村君と話してる!!あの夢にまで見た幸村君と!!
なんか感無量だ!!感動して鳥肌が!!
いつ覚めるか分からない夢かもしれないんだし、もう見つめていて良いだろうか!いやもう拝もう!ありがたや!!


「・・・!?ちょ!え!大丈夫?maruさん!?」

『・・・・・・(改めて名前呼ばれているのを実感するとはわわわ)』

「う、うそだよ?口聞かないなんて、うそうそ!!あ!おでこ痛かった?ごめん!そんな強くしたつもりはなかったんだけど」

『・・・・・・(はあ慌ててる幸村君も素敵だ)』

「maruさん・・ごめんね?・・・大丈夫?・・・やっぱり本当に具合悪いの?それとも何かあったの?」

『・・・・・・(眉を下げた幸村君もグット!)』

「・・・ねぇ。やっぱりなにかあったんだろ?言ってよ。俺でよければ力になるから。ね?」

先ほどから心配そうに訪ねてくる幸村君。

『・・・・・(美人でしかも優しいなんて人間ができすぎてさすが神の子だ。)』

「・・・・maruさん・・ねぇ、泣かないで?
ほら、言ってごらん?どうしたの?」


『・・・・・(泣く?だれが泣くんだ?)』



「ここじゃ言いにくい?・・・いったん出ようか。


ねぇ!沢田!maruさん具合悪いみたいだから保健室まで連れて行ってくる!先生に宜しく言っておいてくれないか?」


[*prev] [next#]
top