Cuz, I like you...


俺の幼なじみの話をしよう。
俺は幼なじみみょうじなまえに嫌われている。
理由は分からない。
なんとか仲直りがしたくて何度も家に行ったし、手紙を書いたりしたけど、彼女は徹底的に俺のことを避け聞く耳を持ってくれなかった。

彼女から最後に聞いた言葉は、鋭い凶器として俺の心臓に突き刺さって深い傷をつけた。

あまりにも突然、彼女に突き放されたし完璧に俺のことを避けられるから、はじめは悲しかったものの最後には俺も腹が立っていた。

何故かって・・・俺は、みょうじなまえのことが好きだったから・・・

小さい頃からずっと一緒に育ってきた。
なまえのことなら彼女本人よりもよく知っている。
好きな食べ物は、彼女の母親が作るデミグラスソースがかかったオムライスで、好きなデザートは俺の母さんが作ったアップルパイだ。
漬け物と和菓子が苦手で、子供みたいにピーマンとにんじんは常に避けて食べる。
明るくて活発で、正義感が強くて負けず嫌いで、男の俺よりも勇敢で少し男勝りだ。

幼稚園の頃、俺は見た目のせいもあり同性の友達よりも女の子の友達の方が多かった。
そして同性の友達はそんな俺のことを頻繁にからかってきていた。
俺は特に気にする訳でもなく、何を言われても言い返すことはなかった。
言い返すよりも無視するほうがより省エネだし、なによりも面倒だったからだ。
しかし、そんな場面をなまえに見つかってからは、持ち前の負けん気の強さと勝ち気な性格で彼らを追っ払ってくれた。
・・・というか、ボコボコにしていた。

「このやろうっ!また精くんをいじめたなっ!うりゃあああ!!」
「うわああ!やめっ!やめろよお!」

ぎゃああ!という男の子の悲鳴とともに幼稚園児のくせに綺麗な飛び蹴りを披露するなまえの懐かしいビジョンが頭に浮かんだ。
自分でなんとかすることはできたけど、でもなまえが俺の為に怒ってくれることが嬉しくて俺はわざと何もしなかった。
俺のことをからかっていた男の子を追い払うと、俺に駆け寄ってきてくれて心配してくれるなまえが大好きだった。

ビー玉みたいに大きくて少しつり上がった綺麗な目は、ネコ科のそれを彷彿させる。
大きな目を覆う様に生えている長いまつ毛。
いくら日に当たっても赤くなってすぐにもとに戻ってしまう肌は透き通るぐらい白くて、細い血管までも透けて見えた。
大きな目とは対象に控えめな小さな唇にすっと通った鼻筋。
抱きしめると、いつもどこか甘いようないいにおいがした。
少し鼻にかかった声で「精くん」とよばれると胸の真ん中にぽうっと灯がともったように温かくなった。

彼女の全てが俺のために出来ているような、そんな錯覚を感じる程、なまえのことが大好きだったんだ。