名字が復学して一月が過ぎたときだった。

いつものように学校から帰って、部屋に入ると机の上に可愛らしいピンクの封筒が置かれていた。
それは疎遠になっていた、朝倉からだった。

俺は急いで母さんに確認すると、俺が帰宅する1時間ほど前に朝倉が届けにきたらしい。

俺は自分の部屋に戻って逸る気持をおさえ、ゆっくりと封筒を開けると、綺麗な文字配列に目を通した。




『幸村君へ

お久しぶりです。
こうして幸村君にお手紙を書くのは初めてで少し緊張して手が震えています。
私は、親の都合で大阪の方に引っ越して、いまはこっちで楽しく学校生活を送っています。

3週間ぐらい前に名前ちゃんが私の家に謝りに来てくれました。
事故にあっちゃって記憶がないって言ってたけど、すごく真剣に謝ってくれて、正直それまでは名前ちゃんのこと少し恨んでたけど、今ではお友達になれました。
大阪と神奈川だから距離があって、なかなか会うことはできないけど、でも毎日ラインしたりして仲良くしています。
私のことをどうやって知ったのって聞いたら、幸村君から教えてもらったと言っていました。
幸村君がいまでも私のことを覚えててくれたことを知って、すごく嬉しかったです。
あの頃は、私もすごく卑屈になって優しくしてくれた幸村君に冷たくしちゃったので申し訳ない気持ちでいっぱいです。
本当は、幸村君が話しかけてくれるたびに、すごく嬉しかったです。

今こうして名前ちゃんと仲良くなれたのも、幸村君のおかげです。
本当にありがとう。
本当は会って話したかったけど、時間が合わなくて、手紙にしました。

私ももう名前ちゃんのことは許したし、今では仲のいい友達だから、幸村君もどうか忘れて下さい。
私は是非3人で仲良くしたいです。

今度、名前ちゃんも含めて一緒にあそぼうね。

朝倉 楓』



俺は読み終わってすぐ、手紙の名前の下に書かれていた、電話番号に電話した。



「もしもし?」

「もしもし、朝倉?」

「もしかして、幸村君?」

「うん、そうだよ。久しぶり。」

「久しぶり!手紙読んでくれたんだね、ありがとう。」

「こっちこそ、ありがとう。・・・それはそうと、大丈夫なのかい?」

「え?なにが?」

「・・・だって、あの名字と・・・友達って・・・もしかして、あいつ無理矢理・・」

「あはは、違うよ!本当に、友達なの。今日も名前ちゃん家に泊まってきた帰りなんだ。」

「・・・え」


心底驚いた。仲はいいと手紙に書いてあったがものの3週間でお泊まりする仲になっているなんて想定外すぎて言葉が出ない。


「あのね、名前ちゃんったら、私に謝りに大阪まで来てくれた日、片道の切符しか無かったの。それでね、これからどうするのって聞いたら野宿するとか言うんだよ?それでね、それように寝袋まで持参してきててさ・・・ぷっ・・・あはははっ。いま思い出しても面白いよね!」

「・・・は?」


あいつが、外で、野宿?
何の冗談だ、いったい。
だいたいあいつは潔癖に近い奴で小学校で皆が体育の時間に地べたに座るなか、あいつはひとり立ったままだったし、蛇口をひねるときはハンカチを使って触れないようにしていた。
そんな奴が、寝袋で、野宿なんて、考えられない・・・


「それでね、私のお家に泊まったんだ。一緒にお風呂も入ったし、同じベッドで寝たりしてね、私兄妹いないからすごく楽しかったの。」

「・・・そっか」


朝倉があまりにも楽しそうに話すもんだから俺も笑みがこぼれる。


「で、そのとき名前ちゃんが今度うちにも泊まりにきてって言ってくれて、昨日名前ちゃん家に泊まったんだ。すっごく楽しかったよ!」

「ふふっ、そっか・・・良かったね。」

「うん!・・・でね?手紙にも書いたけど、そもそも私のことを覚えてない名前ちゃんが何で私の所に謝りにきたんだろうって気になって、昨日聞いたの。そしたら、幸村君がきっかけだって言うからビックリして・・・それで急遽、名前ちゃんに便箋もらって手紙書いたんだ。」

「そっか・・・わざわざ、ありがとう。」

「名前ちゃんは、幸村君には言わないでって言ってたんだけど・・・でも、私のせいで二人がギクシャクするの私なんだか耐えられなくて・・・」

「・・・うん。」

「・・・あのね・・・幸村君には本当に感謝してもしきれないんだけど・・・できれば名前ちゃんとも仲良くして欲しいな・・・名前ちゃん本当にいい子なの!」

「・・・あんなこと言われたのに?・・・」


思わず、携帯電話を持つ手に力が入る。


「・・・確かに、あのときはそうかもだけど・・・少なくとも、今はすごくいい子だよ!私、今では本当に名前ちゃんが大好きなの!」

「・・・そっか・・・分かった・・・。」

「・・・!ありがとう!」

「ふふ、なんで朝倉がお礼を言うの?」

「へへっ、なんか嬉しくなっちゃって・・・あ、私、再来月にも名前ちゃん家に泊まりに行くの!来月は名前ちゃんが私の家に泊まりにくるんだけどね・・・あの、再来月の第三週の日曜日空いてたりする?」

「え、ああ、多分だいじょうぶ。」

「ほんと!?じゃあ、会えるかな!?どこか3人で遊びに行こうよ!」


せっかくの休日に名字に会うなんて冗談じゃないとは思いつつ、朝倉には久しぶりに会いたい気持があり俺は暫く無言で考える。


「・・・やっぱり、ダメ・・・かな・・・」


電話越しでも朝倉が凹む姿が目に見えて俺はふうっと軽いため息をついて、いいよ、と応えた。


「ありがとう!!私すっごく楽しみにしてるね!あ、名前ちゃんには言わないでね。サプライズなの。へへっ」


と、朝倉が言い終わると通話が終了した。


「はぁ・・・最悪かもしれない・・・」


俺は通話が終わった携帯電話を見つめながら独りでそう呟いた。