▽ 来客
翌日、身体を揺すられ目を覚ますと、いつもより興奮した母が居た。
私は、眠たい目を擦りながら時計を見ると、いつもの起床時間より1時間も早かったので、母に文句を言おうとすると、母がとんでもないことを言った。
「なまえ!精市くん来てるわよ!うちで一緒に朝ご飯食べてるから早く準備して降りて来なさいね!」
そう言って、うきうきしながら母は下の階に向かった。
私の部屋のドアを少し開けて出て行ったので、下の階からの声が少し聞こえて来て、そこには確かに幸村の声が混じっていた。
幸村の両親は共働きで忙しいので、たまに家で一緒にごはんは食べていたけど、朝ご飯を一緒に食べるのは久しぶりだ。
私は、ぐっと身体を伸ばしてストレッチをすると準備を始めた。
全ての身だしなみを整え、カバンを持って下に降りると、家の食卓でご飯を食べている幸村と母が居た。
「もう、なまえ遅いから、精市くんと先に食べちゃってるわよ。早く、座りなさい。」
「おはよう、なまえ。急に、ごめんね?いつもより早くて辛かったんじゃない?」
「あら、いいのよ!そんなこと気にしないで。この子もたまには早起きした方がいいのよ。
最近はいつもギリギリに起きるんだから。」
なんで、お母さんが応えるのよ・・・。
と心の中で突っ込みつつ、幸村におはようと返して隣に座って、朝ご飯を食べ始めた。
美味しいねという幸村に頷きながら、まだ覚醒しない頭でテレビのニュースを見る。
そろそろ食べ終わるかというときに母が口を開いた。
「じゃあ、精市くん。うちのなまえをよろしくね?この子、抜けてるけど思いやりだけはある子だから。
私も、精市くんなら、安心してなまえのこと任せられるわ。
これからも二人で仲良くして、はやく私の息子になってちょうだいね。」
「はい。ふふっ。」
「ちょ!お母さんっ!」
「なによ?別に良いじゃない。さ、もう学校行った行った。」
私は、とんでもないことを言ってのける母にため息をこぼして、幸村に行こうと声をかけ私たちは家を出た。
本当に、私が準備をしている間二人でなにを話していたんだか。
幸村は私の肩から私のカバンを取ると、自分のと重ねて持ってくれた。
これも、付き合ってからも変わらないんだなあと感心していると、幸村が私の顔を覗き込んで来た。
「なまえ?まだ眠たい?」
「うーん。そうだね・・・まだ眠いかも。」
「ふふっ。なまえ、かわいい。ごめんね?早く起こしちゃって。
少しでも早くなまえに会いたかったんだ。」
なんだ・・・この甘い空気は・・・。
これまでよりも甘々になっている幸村が放つ空気に若干の戸惑いを隠せない。
「・・・えっと・・・ありがと?」
なんだか恥ずかしいし、どう応えていいか分からないので、とりあえずお礼を言ってみる。
私がそう言うと、幸村はいきなり足を止めて私に「あ、それそれ」と言って、少し困ったような顔をした。
「・・・へ?・・・どしたの?」
「・・・うん。・・・それだよ。」
「・・・え?・・・なに?どれのこと?」
私は訳が分からず何度も左右に首をかしげる。
「・・・その、首を傾げるの・・・なまえ、癖でしょ?」
言われてから、また首をかしげてしまいハッとした。
それって、これのことか。
「あ、また傾げた。・・・それ、すごく可愛いから、俺以外の前であんまりしないで?」
言葉の意味は分かるものの、意図がよく分からない。
「ほら。またやった。・・・もう、そんなに可愛くてどうするの。
お願いだから、俺の前以外で、そんな可愛いことしないでね。」
幸村は、そう言って私を抱きしめてよしよしと頭を撫でる。
もう訳が分からないけど、朝だし頭も上手く働かないのでされるがままになってみる。
ひとしきり私を撫でて満足したのか、幸村は「行こうか」と言って私の手を握り直して、学校へ向かった。
幸村の隣を歩きながら、ちらっと彼を見上げるとそれに気付いた幸村は嬉しそうに笑うから、なんだか私まで嬉しくなった。
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