君にさようなら | ナノ








▽ 第三者







「ねねっ!なまえ!告白されたサッカー部の宮崎君と付き合ったんだって!?」


そう私に話しかけるのは、中学の頃からの親友、千原琴子。
琴子は、明るくてサバサバしてて鈍臭い私のお尻をいつも叩いてくれる、私の数少ない親友の一人だ。
いつも正直で居て、ズバズバと思ったことを言ってくれるから、鈍臭い私でも上手く付き合ってきやすいのだ。



「えー付き合ってないよ。もう、何だかややこしいことになっちゃったなぁー・・・」



私は琴子に事の経緯を軽く説明し誤解を解く。
琴子は、なーんだとどこかつまらなさそうに頬杖をついて話を続けた。


「てっきり、やっと幸村のこと振り切れたのかと思ったのに・・・。
ねえ。ほんとに幸村とよりを戻すか、他の人と付き合うかどっちかにした方がいいって。
恋愛の傷は恋愛でしか埋められないって言うじゃない。」



「うーん・・・なんかそんな気分になれないんだよね。
・・・また結局、自分も相手も傷ついて終わる気がするんだ・・・。
・・・もうそんな恋は嫌なの・・・。」



「・・・そんなのなまえの中だけでしょ?やってみなきゃ分かんないじゃん。
だって私たちまだ高校生だよ?そんな早くに枯れちゃってどうすんのよ。
もういっそのこと、きっかけがあったら付き合っちゃえば良いじゃん!で、ダメなら直ぐ別れる!
・・・私は個人的には、また幸村とより戻して欲しいけど・・・。」



この子はいつでも私に的確なアドバイスをくれるなと感心する。
本当に琴子の言う通り、枯れるにはまだ早すぎるって思うけど、いざとなると足がすくんで動けなくなる。



「・・・幸村とは、相変わらずなの?」


「・・・昨日の朝、また迎えに来てくれて・・・それで好きだって言われた・・・。私が他の人と付き合うの嫌だって言ってた・・・。」


琴子は分かりやすく身を乗り出して驚いて見せる。
私は昨日の朝にあった出来事を出来るだけ鮮明に彼女に話した。



「いいじゃん!幸村ってばやるじゃん!情熱的!」


なんで琴子が興奮しているのかは分からないが、彼女は気にせず続ける。


「やっぱ、幸村はなまえのこと大好きだよねー。付き合いだした頃はそうでもなかったように見えたけど、退院してからは愛しそうになまえのこと見つめちゃってさあ。もうなまえのこと好きなんだなあって伝わってきて、幸村にあんな情熱的な一面があったなんて私の方がドキドキしちゃったよ!」


なんだか恋愛映画でも語るように胸に両手をあてて熱弁する琴子に、私は思わず苦笑いをこぼす。



「・・・そうだったかなぁ・・・まぁそうだったとしても、幸村は本当の私のことは・・・好きになってくれないと思う。
・・・幸村には、真田君か蓮二君の女の子バージョンみたいな子が似合うと思うんだ。」


「あはははっ!なにそれ!?新たなギャグ!?やだーやめてよ、柳と真田の女バージョンとかキモい!あはははっ!」


「・・・そんな可笑しいかな・・・真剣なんだけどなあ。」


「ごめんごめん。でもさ、なまえはよく本当の私って言うけど、どれも本当のなまえじゃん。
そりゃあ確かに、幸村が入院してたときは別人のようになって吃驚したけどさ。
・・・いまはそうじゃないでしょ?それに高校に入って、またなまえらしくなっても、幸村はなまえが好きって言ってるじゃん。
・・・・・・あんときは幸村も大変だったんだしさ。
もう一年もなまえのこと追いかけ回してんだし、信じてあげたら?いいやつじゃん。」


穏やかなため息をこぼしながら私にそう促す琴子に、何も言えなくなってしまう。


「・・・いつまでも逃げてたら、とられちゃうよ?
幸村すっごいモテるんだから。」


幸村は中学のときも人気はすごかったものの高校に入ってからもその人気は衰えるどころか益々人気が出てファンクラブへ加入する女の子がうなぎ上りだそうだ。

小学生のときから綺麗な顔をしていたけど、高校に入ってからは男らしくなって、それほどなかった身長差も今では10センチ以上引き離されてしまった。



「ねぇ、なまえはさ。幸村が他の女の子と付き合ったら・・・どう思うの?」


琴子のいうシチュエーションを頭で軽く浮かべただけで、心臓がチクリと痛んだ。


「あ、やっぱり嫌なんでしょ。もー分かりやすいったらないね。」


そうなのかな・・・。
確かに、幸村が私に構わなくなってしまうのは少し寂しい気がする。
それに、他の女の子と付き合って、私としたようなキスをするのかと思うと、やっぱり心臓がチクリと痛い。



「・・・あんまり意地はってないで素直になったほうがいいんじゃない?」


「・・・意地はってるつもりはないんだけどなぁ。・・・そうだよね・・・いつまでも怖がってちゃダメだよね。・・・ありがとう。」



琴子はいつも私を正しい道へと導いてくれる気がする。





私は改めて自分と向き合おうと思い、琴子にお礼を言って席に戻って一時間目の授業の準備をした。






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