天にましますわれらの父よ、
願わくは御名の尊まれんことを、
御国の来たらんことを、
御旨〔みむね〕の天に行わるる如く
地にも行われんことを。
われらの日用の糧を
今日〔こんにち〕われらに与え給え。
われらが人に赦す如く、
われらの罪を赦し給え。
われらを試みに引き給わざれ、
われらを悪より救い給え。

【Prologue】

時はガアル歴777年。古くから海上交通の要所として栄えた国があった。

多民族からなる貿易都市国家。古代から栄え続ける国ではあるがその全ての時期が平穏で安定していたわけではない。この国にも暗黒期と呼ばれる時代があった。稀代の暴君と名高きロッテ王が治世していた時代である。

この好色で冷酷で無慈悲で不安定な王は、自身の欲の為に旧教に属していた国教を議会の反対を振り切り新教へと改宗し、それに異を唱える者は平民、貴族、聖職者問わず粛清したと今日では伝えられている。

しかし、そのような悪がはこびる事を”善”が許すだろうか?否、許すはずもない。王打倒を掲げたクーデターが起こったのはもはや必然であった。そのクーデターを主導したのが聖王と名高きかのブルボンである。

ブルボンは旧教側の人間だったが狂信的な信者ではなく穏健派だったため、新教側の人間にも寛大な態度を持って接し支持者を徐々に増やしていった。強硬で独裁色が強いロッテに危機感を覚える貴族や聖職者が新教側にも多かったこと、貴賤を問わず人に接するブルボンの人柄も追い風となった。教会を、貴族を、そして何より世論を味方につけたブルボンはついに暴君を打ち破る事に成功する。

聖王ブルボンは民族融和政策をはかり、新教・旧教どちらも国教として同等と扱った。ブルボンによる治世は平和を享受する時代となった。しかし、一度生まれてしまった宗教間の怨恨は消えるはずもなく火種として燻り続けた。そして、その火種は聖王の崩御と共に弾ける事となる。聖王ブルボンは直系の子孫を残さなかったためその後継者の地位を巡り、血で血を洗う戦乱の世が再び幕を上げる事となった。

聖王の崩御と共に再び冬の時代が訪れたのだ。

時は流れー……

国の片隅のスラム街。酒場や娼館が立ち並ぶ昼でも薄暗い吹き溜まり路地で暮らす一人の若者がいた。

この物語は、人の尊厳とエゴ、イデオロギーの衝突の物語である。


【世界設定】

・文明レベルは近世から近代ヨーロッパレベル。(服飾についてはこの限りではありません。現代風の衣装だろうが他の地域の民族衣装だろうが何でもあり)

・魔法と黎明期科学の共存した世界観。

・モンスター(魔物)がいる。亜人とは違い知能を持たないのが特徴。

・宗教は旧教(カトリック的なもの)と新教(プロテスタント的なもの)に大別されるが、アニヒズム文化もある。

・混血児に対する差別はありません(民族浄化主義者を除いて)

・割となんでもありの闇鍋です。

・純血主義者が暮らす領土には混血を強制収容する施設があります。現当主の先々代までは非人道的な行いが秘密裏になされていたようですが、先代から取り止めとなり混血を隔離するだけにとどまっているようです(アウシュビッツではなくアパルトヘイトを思い浮かべていただけると幸いです)
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