2009/08/15


「何だこれ」

ピンクを主体にしたカラーリングデザインと、その中央で笑顔でポーズを取るやたらキラキラしたモデル、ファッション、コスメ、その他様々な煽り文句が躍り、その中にある1つの見出しが真城の目に飛び込んできた。女性ファッション雑誌である。
「童貞クンにゲンメツされないための6つの心得!」と言う見出しである。女性ファッション誌など見たことがない、見ようとも思わない、そもそも興味もない真城であったが、その何とも言えない見出しについ手が伸びた。
そもそもどうしてこんなものが仕事場にあるのかと考えたところで、犯人は見吉しかいない。おおかた置き忘れたのだろう。あいつこんなの読むんだ……とパラパラと薄いページをめくる。
中身は何の変哲のないファッション関係、新作コスメやブランドのアイテムなどがきらびやかに紙面を埋めている。真城には興味がないものばかりだ。可愛いとは思う。思うが興味がないのは性別や性格の問題で仕方のないことだ。
ページをめくって行くうちに、気になった見出しの記事を見つけた。ファッション関係のページはきれいなカラーページだったが、その記事はモノクロの地味なページだった。しかし見出しは表紙のものよりもっと下世話だった。
意中の相手が童貞だった場合に気を付けること、「ゲンメツ」されないためのベッドマナー、童貞タイプ別セックステクニックなど、わざわざ図解を載せてまで解説している。真城は少し赤面しながら読み進めるも、その記事の内容に引いていた。

「サイコー、いつものコーヒー売り切れてたから、似たようなやつ買ってきたけど良いよなー?」

仕事場の扉をガラリと開いて、高木が入ってきた。手には大きめのコンビニの袋を提げている。近くのコンビ二まで飲み物を買いに出掛けていたのだ。真城の身体が反射的にビクリと跳ねて雑誌を隠そうとしたが、その行動もむなしく高木に見付かってしまった。

「何だそれ?」
「た、多分見吉の雑誌」

ふうん、と興味がなさそうに返事をし、コンビニの袋をテーブルの上に置いた。袋からコーヒー缶を1つ取り出して真城に渡す。渡されたコーヒーを受け取ると、高木が真城の手元を覗き込んできた。眼鏡の向こうの目が大きく見開いている。

「何これ?」

真城は言葉に詰まってしまった。雑誌は自分のものでないにせよ、こんなページを見ていたのをあまり知られたくなかった。誰でも自分のイメージと言うものがある。そう言うものは極力守りたい。後の祭りだが。
高木は遠慮がちに真城の顔を見ると、手元の雑誌の記事に目を通し始めた。流し読んでいるだけでも、その内容が結構な下世話さを持っていることはわかる。高木は少し眉間にしわを寄せたかと思うと、今度は眉をハの字にして困ったような顔になった。

「女ってこう言うの読むんだ……」

ぼそりと呟いた言葉に、何だ同じかと真城は思った。多少なりとも「女の子」と言うものに清純性を求めている男としては、あまり見たくない女の部分であった。なまじ記事の内容が生々しいので尚更だ。
見吉の趣味で定期的に購読しているのか、友達に借りたのかは知らないが、知らなくても良い部分を知ってしまった気分だった。高木も同じような気分なのか、真城の顔を見て苦笑いをしている。

「でもこれサイコーには当てはまんな……あっ」

冗談めかしに言った自分の言葉が失言と知った頃には遅かった。顔を上げた先の真城の目は、蛇のようにじとりと高木を見ていた。内心冷や汗をかきながらどうしようと思案したが、高木がフォローをする前に真城の顔がにやりと意地悪そうな笑顔を描いた。

「ご、ごめんなさい」
「よし」

真城に何か言われる前に、高木はさっさと白旗を上げてしまった。真城は基本的にこう言う話が苦手なのか、あまりしない。とりあえずの許しを得た高木は、再び真城の手元にある雑誌を覗き込んだ。そこには詳細すぎるベッドテクニックの図解が載っている。
ふと、一つの記事に目が留まった。記事のテイスト的には変わらないが、その文字は高木の意識に引っ掛かったのだった。
やけに真面目に読んでいる高木に不思議がった真城だったが、そう言う話が好きなのだろうと放って置いた。しかし高木は読みながら徐々に顔を赤くしていく。確かに赤面を誘う記事だが、こう言う話に免疫がないわけでもない。
不思議に思いながら「シュージン?」と呼びかけると、真城に顔を向けた高木は恥ずかしさからか微かに目が潤んでいた。その目に鼓動が跳ねたが、何食わぬ顔でどうしたのかと聞くと、何度か言い淀んだものの高木が口を開く。

「いや……俺童貞だけど、処女じゃないよなぁって……」

その言葉に今度は真城が赤面した。することをしておきながら、こんな些細な会話で赤面する自分達が滑稽に思えたが、改めて言葉にするのは恥ずかしいものがあった。互いから顔を背けるように2人で俯いていると、高木が「何か複雑……」と呟いた。

「こ、後悔してる? 俺とこうなったこと」
「しっ、しねーけど……でも」

でも、と小さく呟いて、真城をチラリと見た。真城も同じタイミングで高木を見て、自然に2人は目を合わせることになってしまった。しばらく赤い顔でお互いを見ていたが、耐えかねたように高木が手で顔を覆ってしまう。

「恥ずかしいのは恥ずかしい! でもサイコーとセックスはしたいから」
「……おまえもっと恥ずかしいこと言ってんぞ」

全くオブラートに包む気のない高木の言葉に、真城ももっと顔を赤くさせた。恥ずかしさのあまり今日はもうキスもしたくなかったが、そのうち高木の方からねだって来るだろう。高木はあまり我慢がきかない。
明日見吉に会ったら雑誌を返して、余計なもの置くなと釘を刺しておこうと真城は誓ったのだった。


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お題をやってみた。(お題提供:虚像)こう言うチョイス系お題なら気軽に出来て良いなぁ。
何か書き上げて気付いたけど、これ「童貞」だけで「ロマンチスト」がない…

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