「……石田、ッ…平気か?」
「…、……大丈夫。僕より君の方が重傷、だよ」


先程までとは打って変わり、静寂が支配した空間で黒崎一護と石田雨竜はうずくまっていた。あの後、隙を付いた雨竜が呆然としていた一護の腕を掴み、飛廉脚を用いその場から逃走したのだ。此処は一体何処なのだろう。少しでも遠く、そう思い逃げた為、空座町でない事は確かだ。
一護も雨竜も斬られている事に加え走った所為で、体力は既に底を着いてしまっている。今此処で月島達に見つかってしまえば、…きっと二人共殺される。


「……黒崎、」


掠れた声で呼び掛ける雨竜に、一護が耳を傾ける。大声を上げる気力が無いので返事の代わりに雨竜の指に自分の指を絡めた。軽く握り返されて、少しだけ安心する。


「僕、…斬られただろう?」
「……ああ。」


そう言われ、一護は雨竜が月島に肩を斬られた事を思い出す。もしブック・オブ・ジ・エンドと呼ばれるあの男の能力が雨竜にも掛かっていたとしたら。茶渡や織姫、友人達の豹変ぶりを思い出しゾッとした。今の彼等にとって月島秀九郎という存在は、昔から付き合いがある深い仲であり大切な人間で、それが紛れもない事実になっている。彼等からしてみればおかしいのは明らかに一護の方であり、大好きな月島に襲撃を仕掛けたのだから自分を攻撃対象とするのは当たり前と言えば当たり前で。
――そこまで考え、一護は舌打ちをした。

「でも、よ。…チャド達は斬られたって言っても怪我、してなかっただろ」
「直接攻撃でも効果があるかもしれない。……君を、殺そうと思うかもしれない」


目を見開いた一護を見、雨竜が微笑んだ。

「…けどそれは無いね。記憶を改竄する能力では無いらしいから。」
「…ああ、相手の過去に自分の存在を挟み込むらしい。」
「……ふぅん、」


それはまた厄介だね。雨竜が口元に指をあて、溜息を吐く。何故今の状況でそのように冷静でいられるのか、一護には理解が出来ない。


「…自分の記憶が変わっちまうかもしれないのに余裕だな」
「たとえ変わったとしても、僕自身ではきっと気が付かないよ」
「………。」


その通りだ。異変に気付くのは一護だけで、本人は自分に何が起こったのかなど分からない。月島秀九郎は大切な人間だと、あくまでも自然に記憶の中に入り込むのだ。そしてまた、自分だけが取り残される。


「だから、黒崎」


雨竜の指に力が込められる。一護が聞き返そうとすると、唇を軽く塞がれた。瞬間的なものだったそれを直ぐに離し、雨竜は一護の肩に寄りかかる。髪で顔が隠れてしまい、表情が全く見えない。


「もし僕が奴の能力に冒されたら、…その時は迷わず僕を倒してくれ。」
 
 
その凛とした声に反し、彼の指は少しだけ震えていた。





 
 
 
WJ34号を読んで妄想した末の産物でした。

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