くるり、くるり | ナノ


▼ くるり、くるり。4

くるり、くるり。4




血を浴びながら人を斬りつける。
その男の表情は、無表情。

木の影に隠れながらその場に立ち尽くし、見ていた。

鬼のように、人をバッサバッサと斬りつける、黒の着流しに黒髪鋭い眼。


"鬼の黒夜叉"
"土方十四郎"


"俺と同じニオイがしたんだ"
(こいつから、)






幼少時代一度だけ、お前を見たんだ。
あの無表情のわりに鋭い眼付き。
俺と同じ背に俺と同じ年代。
刀よりも小さい身体な癖に、剣の裁き、呼吸の仕方、素早い動き。

顔には返り血の紅さ。

でも、褪めたあの表情には、寂しさ、孤独、切なさ、哀しみ、が酷く黒くなった表情だと感じた。







泣きたくなった、
自分を見ているようだった。
馬鹿馬鹿しくなって其所から逃げた。






後ろを振り向くと、黒猫のように走ってくる人影がいた。

(なんで…っ)
その場でまた立ち尽くしていた
あの鋭い眼が、此方に来ていた。


「オィ」

捕らわれたかのように固まり反らす事が出来ない。

「な、なに」
「お前…」
「…」
「…忘れもんだ。」
「あっ」

松陽先生から貰った教科書。






"ありがとう"を言おうと
教科書を大事に抱えたあの一瞬で、
あの黒猫は、もう居なかった。







そして、貴方は、
また鬼と名乗った肩書きを許して生きていた。



「土方…」










黒猫と白猫の夜叉。
(恋は儚い一瞬で惹かれ合っていた。)




























.
- ナノ -