「任務…完了…」
わたしたちが乗った荷台を優しく地に着かせた後倒れるように着地したタカヒロさんに「お疲れ様でした」と頭を下げると弱々しくも「なに…気にすることはないさ…」と震える声で返された。
わたしたちは帰ってきたのだ。逢魔ヶ刻動物園へ。
あの後。えんちょーさんがラビットピースでトドメをさした後。サカマタさんが伸された館長さんを俵抱きにしたかと思えば「海洋生物をバカにしてきたこいつは海で一生を終えさせる」と、水族館側なりのやり方でケジメをつけると伝えて海へ去ってしまった。
たしかに館長さんは横暴で自己中心的で身勝手な人だったけど、客寄せや経営のことに関してはピカイチなことは事実。「館長がいなくなって…この水族館はどうなるの?ここが好きな人達は…」というハナさんの問にイッカクさんは「顧客満足!!私達でなんとかする!!」と館帽を被り直して声を張った。
経営だとかスポンサーだとか、そういうのはよくわからないから口は出せないけど、大変な問題ではあるんだろうなとは思う。
事の発端の館長さんはいなくなったのだから、水族館とわたしたち動物園が手を組み合う…なんてことは不可能なのかなぁ。そう思っても未熟者のわたしは口を開かなかった。
「…ぃ……ぉ、…!」
「……(ねむいな)」
「おいって!聞こえねぇのか!!」
「ひゃいぃ!?すいません!」
荷台に乗るまでが(普段ノロマなわたしからすると)慌ただしい出来事だったため、頭の中で今一度噛み締めるように思い出していたのだけど、そのせいでぼーっとしていたらしい。荷台にはわたしとシシドくんしかいなかった。
「早く降りろって!ボスは最後に降りんだ!!」
「えっ、あっごめ、ごめんね」
強い口調と覇気に、追い立てられるように荷台から降りようとする。が、逆に焦り過ぎて片足が地に着く前にバランスを崩して落ちてしまった。まぁ、荷台から降りれたから万事OKだね。少し離れたところではイガラシさんが胴上げされている。されすぎて空中で数回転以上している。労いという言葉をみんなは知らないのだろうか。
なんてまた考え事をしていると、荷台から勢いよく黄金の毛が現れた。黄金の毛ことシシドくんは焦ったような顔でわたしを上から覗き、終いには「よかった…」と小声で呟いた。何がよかったんだろう?わたしとシシドくんの視線はがっちり合っている。疑問符を飛ばすわたしを見てハッとしたように「よえーから死んだかと思ったんだよヨワガメ!!」と怒鳴ってきた。いやいや、さすがに、理不尽だよ!
「わたしそこまで弱くないよ」
「弱ぇ。弱すぎんだよ。今日だって、なんでクジラに突っ込んでった」
「…だ、だって、えんちょーさん助けたくって」
「ヨワガメは誰も助けられねーよ」
ガツンと殴られたような衝撃が頭に、胸に、心に、走った。
すぐに怒りが湧いてきて、でも何も反論する言葉が出てこなくて悔しくて俯き下唇を強く噛む。くやしい。でも事実だ。
「うん」
そんな言葉しか出てこなかった。
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