書きたいところだけ。
なんとなく目が覚めてしまって、早い時間から着替えて談話室の暖炉の前という1番良い席でレポートを仕上げていた。期限は3日後。いつも前日ギリギリ、たまに徹夜して仕上げてるわたしがこんな早くからレポートに取り掛かってるなんて知れたらウィーズリーの双子に「どうやら熱があるみたいだ」と医務室に運ばれかねない。実際、二年のときに運ばれかけた。失礼にもほどがあるもんだ。
思い出してひとりでに失笑していると、階段のほうがなんだか騒がしいことに気付いた。騒がしいと言っても、誰も起きてないとても静かな談話室からすると、だけど。
男子寮の方からだ。タタタッと興奮気味に降りてきたのはグリフィンドールクィディッチチームのキャプテン、ウッドだった。興奮してる。
「おはようナマエ!」
「お、おはようウッド。今日は早いね。ほんとうに…」
「それはナマエもだろう?それより、ちょうどよかった!頼みたいことがあるんだ」
「なにを?」と聞く前にウッドは勝手に話し始めた。わたしが頼まれてくれることを前提としてるみたいだけど、こんな朝早くから何を頼まれなきゃいけないの?
「アリシアとアンジェリーナとケイティを起こしてきてほしい!」
「はい?」
この男…(一応先輩ではあるけれど)この男ほんとうに何を考えてるの?こんな早い時間からそんなことをすればとばっちりを食らうのは確実にわたしだ、寝起きのアンジェリーナに一発貰うのは決定的にわたしじゃないか。
「ぜっったい嫌だよ、ころされる」
「俺が起こしに行った方がもっとひどいさ。これからクィディッチの練習なんだ、今度こそ優勝したい。ナマエもわかるだろ?」
クィディッチ…優勝…
「またスリザリンの野郎共にでかい面させたくないだろ?」
スリザリン…吠え面…
「朝から練習するためにちゃんと許可も事前に貰ってるんだ!それに俺は今年が最後。今年しかないんだ。な?わかるだろ?」
……………それはちょっとずるい。
「…わかった、わかったよ、行ってくる」
「さすがナマエ!話がわかるな!俺はハリー達を起こしてくる!」
そして予想外にもアンジェリーナだけではなくアリシアと、一応後輩であるケイティからも良い一発を頂いたけど、どれもこれもグリフィンドールの優勝杯のためである。これで負けたらウッドは容赦しない。
──────
「ナマエ、おはよう」
「ハーマイオニー、ロン、おはよう」
「ああ、おはよう!じゃあね!」
「ちょっとちょっと、どうしたのそんな急いで」
「ハリーがクィディッチの練習してるんだ。それを見に行くんだよ。朝ご飯食べながらね」
「まだやってるの?」
「そうみたい。ナマエも行く?」
「あー、そうさせてもらおうかな」
ゴブレットを拝借してバスケットに変えると、横からワォ!と拍手をもらった。こそこそとロンがハーマイオニーに囁く。
「変身術だけは得意だってフレッドが言ってた。変身術だけはね」
「聞こえてるよ、ロン」
「……あと地獄耳だってジョージが」
────
「……」
「……」
「……」
「…いないわね」
「いないね」
「終わったのかな?僕たちすれ違ったのかも」
「かもしれないね、」とトーストを齧ったところで入場入り口からぞろぞろとグリフィンドールチームが出てきたのをハーマイオニーが発見した。
「まだ終わってないのかい?」
「まだ始まってもないんだよ。ウッドが新しい動きを教えてくれたんだ」
ハリーの言い方には明らかにウッドへの棘があったけど、先に飛び立っていたウッドには聞こえなかったようだ。近くにいても聞こえないだろうけどね。彼は都合の良い耳をお持ちだから。
フレッドとジョージとハリーが、それこそ水を得た魚のようにグラウンドを飛び回っていると後方からシャッター音が響いた。私たち以外にも観客がいたみたい。朝の澄み切った空気にはよく響く音だ。
フレッドたちに手を振ろうとすると、片割れ(遠くてどっちがどっちだかわからない)が入り口の方を指差した。
「ゲェ、マーカス・フリントだ」
ロンが心底嫌そうに言った。続いてハーマイオニーが「嫌な予感しかしないわ」とため息を吐いたのに対して同意した。
「ほら、ウッドたちが怒ってるぜ」
「朝、ウッドはちゃんと予約してるって言ってたんだよ。スリザリンの横入りだ」
「ならグリフィンドールが使うべきだわ!」
「そうはいかないのがスリザリンだろ」
「たしかにー」
現にアンジェリーナたちも入り口にまで降りて行った。やはりそうはいかないのがスリザリン、だったようだ。ハリーの前には、ハリーの宿敵ドラコ・マルフォイが顎を上げ立っていた。
「私たちも行きましょう!」
正義の心を燃やされてしまったらしいハーマイオニーにつられてわたしたちは観客席を降りる。
「どうしたんだい?どうして練習しないんだよ。それに、あいつ、こんなところで何してるんだい?」
「ウィーズリー、僕はスリザリンの新しいシーカーだ。僕の父上が、チーム全員に買ってあげた箒を、みんなで賞賛していたところだよ」
そしてマルフォイはくいっと箒を動かして注目させた。黒くツヤがあり、上品なそれの柄には『ニンバス2001』と彫られていた。最新型だ。
「グリフィンドールチームも資金集めして新しい箒を買えばいい。クリーンスイープ5号を慈善事業の競売にかければ、博物館が買いを入れるだろうよ」
クリーンスイープ5号はジョージとフレッドが愛用してる箒だ。ニンバスに速度は劣るものの安定感、バランスのある逸品であり、決してバカにされる箒ではない。なにより、暗にフレッドとジョージを見下した言い方に言いようのない怒りが湧いた。
言い返してやろうと一歩出れば、私よりも先に隣のハーマイオニーが口を開いた。
「少なくとも、グリフィンドールの選手は、誰1人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」
よく言った!ハーマイオニー背中を叩くと、マルフォイが吐き捨てるように言い返してきた。
「誰もおまえの意見なんか求めてない。生まれ損ないの『穢れた血』め」
一拍の沈黙の後、みんながカッと頭に血が上るのがわかった。チームのみんなが怒り心頭とばかりにマルフォイを非難したからだ。ロンなんかは折れたままの杖で呪いをかけたものだからナメクジの呪いが自分に返ってきてしまっていた。
わたしは父がマグルで母が魔法族で、手紙が来るまではマグルの生活をしていたため、純血とか穢れた血とか、意味は知っててもそれがどうしたとしか思えなかった。血ばっかり気にして、なんだか、あれみたい、ええと、なんだっけ。
まあとりあえず、わたしの想像よりも遥かに、その差別用語は酷いものらしかった。
ナメクジの逆流が止まらないロンをハリーとハーマイオニーがハグリッドの小屋へ連れて行った後も、スリザリンチームの笑いは止まらなかった。
「見たかあのウィーズリーの顔!かっこつけようとしたみたいだけどとんでもないマヌケだ!」
ああそうだ思い出した!
「マルフォイって犬みたい」
「………は?」
意味がわからないと顔を歪めたマルフォイに対して、わたしは言うつもりのなかった自分の言葉に焦りを感じた。けど訂正することはできない。ほんとだもの!
「純血、純血って、まるで血統書つきの犬みたいだよ」
魔法族は、魔法族以外の生き物を見下してるという説は正しいかもしれない。マルフォイの顔が如何にも「バカにされました!」という怒りで赤くなった。まぁちょっとはバカにしましたけどね。ちょっと、半分、だいたい。
わたしの発言に調子を良くした双子が「ああ、それもとびっきりの犬だろうな」「アフガンハウンドだ」と続けたので思わず笑ってしまった。グリフィンドールチームも知ってる人はクスクスと笑いだし、スリザリンチームは「気高い種には変わりない!」と怒鳴っている。否定はしてないことに気付いてないみたい。当の本人のマルフォイは犬の種類には明るくないようで、でもバカにされてるということだけは分かってるようだった。
「アフガンハウンドは最も頭の悪い犬で有名なんだよ」