放課後の教室。
オレンジに輝く綺麗な夕焼けが、教室に差して、窓際に座る私たちの影を伸ばした。
目の前には数字と記号ばかり並んだプリントと、そのプリントを私と共に覗き込む骨抜柔造くんがいる。
「ごめんねー骨抜くん。私の補修に付き合ってもらっちゃって」
「いやァ、教えてれば俺の復習にもなるから全然いいって」
「柔軟な考えだね骨抜くん」
推薦でヒーロー科に来た骨抜くんは受験でヒィヒィ息を上げてた私とは頭の作りに雲泥の差があるらしい。
物間くんとB組底辺コンビを組んでる私は本日とうとう、あのB組贔屓がすごい事に定評のあるブラド先生から「ミョウジ、なんでお前は勉強ができないんだ?」と言われて前回の数学小テストの補修プリントを頂いてしまった。なんでって、私が知りたいよ、先生。
(ちなみにこないだ底辺コンビだねと物間くんに言ったら彼の心のアレが爆発した)
なんで勉強ができないのかと言われても、頭は悪い上に勉強も大嫌いだからどうしようもないよね。教科書なんか燃えてなくなればいい。
そんな私を見兼ねた骨抜くんが「数学?教えてやろうか、見せてみ」と手を差し伸べてくれたのだ。なんて優しいんだ骨抜くん。
5枚のプリントを私のレベルに噛み砕いて教えてもらいながら進めていくと、もう放課後になってから時計の長針が一周と半分回っていた。
プリントの問題を指差しながら教えてくれるが、大嫌いな勉強の中でも特に大嫌いな数学に熱心に取り組んでたんだ。もう疲れ果ててまったく集中できない。
机にぐでーんと伸びて「もうできないよー頭パンクしちゃうよー」とこぼすと「んじゃ休憩挟むかー」と応じてくれる。勉強教えてもらってる上に集中もしないワガママな私を叱らないなんて、クラスの中でも骨抜くんくらいなもんだ。
「骨抜くんは優しいねぇ」
「ミョウジがこれ以上ないくらい苦々しい顔してたからな、つい声かけちまった」
「えーそんな顔してた?そういうのすぐ顔に出ちゃうからなー。こないだブラド先生に敵に弱みを握らせる事になるぞ!って怒られたばっかなのに」
「まァそれはそれでヒーローとしてはいんじゃね?信用できるし、何より素直で良いんじゃん」
「骨抜くんは優しいねぇ」
「それ2回目」
「そろそろ再開しようなー」と骨抜くんがプリントに目を落としたので、「もうちょっとお話ししようよ」と阻止すると「ミョウジ、現実から目逸らしすぎね」と呆れられてしまった。だってまだ10分も休憩してないよ!
「あ、ねぇ骨抜くん彼女いる?」
「…いないけど。女子ってすぐ恋バナ始めるよな」
「でも柔軟に対応してくれてるじゃ〜ん。ね、じゃあ好きな人は?」
「それは、いる」
「へぇぇぇ〜」
頬杖をついて骨抜くんを見つめる。あまり日焼けしてない骨抜くんの頬が少し赤みを帯び、目線は私から逸れていった。
私に恋バナを振られて恥ずかしくて照れてるのか、その好きな人やらを思い出して乙女のように恥じらっているのか。
……え?後者だったらどうする?すごい面白くない。
面白い話になるだろうと振ったのに、何も面白くない。なんか胸はもやもやするし、イライラする。骨抜くんは良い人なのできっと好きな人も良い子なんだろう。でもなんか骨抜くんの横にいる女の子って考えたくないんだけど。なんで好きな人いるんだよ骨抜くん!
あー、私のワガママもここまでくると病気だ。
「ふーん、好きな人いるんだ」
「……目線が怖いわ」
「この学校?」
「…まァ。これ当たるまでやるやつ?」
「それでもいいけど」
やっと帰ってきた骨抜くんの視線。優しい優しい骨抜くんの視線を独り占めしている子が
この学校にいると知って、胸のもやもやが膨れ上がった。
「ねぇ骨抜くん」
「なによ」
「ちゅうしたい」
口も目も開いてマヌケな顔で私を見る骨抜くんを見て、もやもやが少し晴れた。
にやにやする私とは反対に、骨抜くんは何を言われたのか理解したようで徐々に頬が、というか顔が赤く変わっていく。
「だッ、だだだめじゃね!?流石にね!?俺はうれっ……あの、あれだけど!俺ら付き合ってもないし!?」
「柔軟じゃないねぇ骨抜くん」
「いま柔軟さ出すとこじゃないんだわ……」
声を荒げて焦る骨抜くんなんて今まで一度も見たことがない。
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続きが書けなかったのでボツ
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