ふわぁとあくびをすると、目尻から涙が溢れて床にコンッコロコロとぶつかった。

「相変わらず綺麗な"個性"やねぇ」

「中身すっからかんの無価値な石だけどね」

近くにいたお茶子ちゃんに涙だった石ころを取ってもらって、巾着袋にいれた。後でまとめて捨てるのだ。

「でもでも女の子なら憧れちゃう"個性"でしょーが!」

「そうね。涙が宝石になるなんて素敵だわ」

「ヤオモモの創造と似てるよね」

「わたくしは脂質を変換しているので似て非なるものですわ。ですがたしかに、可愛らしい"個性"です」

「いやいや、そこまでいいものじゃないよ……」

みんなこの"個性"のいいところしか見てないのだ。

その時、チャイムがキーンコーンと鳴り、音を当てて扉を開けたのは相澤先生。みんな何も言われずとも、ものの数秒で完璧に着席した。
相澤先生の座学の授業はヒーロー基礎学とまた違う緊張感がある。ぼーっとしてて聞いてませんでしたなんて非合理的なことはできないので一言一句聞き漏らさないように集中する。
集中して板書をしていると、なにやら違和感を抱いた。

むずむず

「……」

むずむずむずむず

やばい、くしゃみしたい。
でもそんなことしたら睨まれる。がまんがまん。私はかわいいくしゃみを習得してないので教室でくしゃみなんて恥ずかしすぎてできない。がまんがまん。そう、がまん。がまん。がま、ん。が……
咄嗟に左の窓側を向いた。

「は……っくしゃん!」

ばりーん!

「……………………」

私の唾、もとい細やかな宝石が勢いよく飛び、窓を粉砕した。すごい、これ、技にしよう。

先程雑談をしていた女子たちに顔を向け、「ね?そんないい"個性"じゃないでしょ?」と無言でにっこり笑うと蛙吹ちゃんの「…ケロ」という声が聞こえた。そして教卓に立つ相澤先生からとんでもない圧力で名前を呼ばれ、そちらに顔を向ける。

「放課後、職員室」

「はい、相澤先生」

そうだ、必殺技『ジュエル スニーズ』と名付けよう。

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