毒の花 | ナノ
「そういえば、サイタマさんはお仕事してないんですか?」

私がここのところ気になっていた疑問である。
朝ご飯の焼きジャケを突っつきながら質問すると、サイタマさんが一拍おいてから答えた。

「俺は趣味に生きる男だ」

「あ、無職?無職なんですか?ハローワーク行ってきたらどうですか?」

「うっせーな!趣味でもヒーローやってんだからいいだろ別に!」

「世間体というものがですね…」

「隣人なんか居ない上に悪魔がなに世間体気にしてんだよ!」

悪魔だって世間体くらい気にしますよナメてんですか!
サイタマさんは悪魔をナメ過ぎですよほんとに…なんてぶつぶつぼやきながら、テレビから流れるニュースをBGMに朝ご飯を食べていた。

「あ、そういえばこの前私が出掛けてる時、B市が半壊したらしいですよ。なんでも、怪人が転んで倒れたとか」

「へ、へぇ…」

「…なんですかその反応」

なんでもねぇよ、ていうか今日暑いなー!なんて明らかな話の軌道の逸らし方に怪訝に思いつつも、そういえばそうですね、蚊も多いです、私は血は吸われませんけど、なんていつも通り返していた。



***



「サイタマさん、お茶が切れたので買ってきていいですか?」

「ああ、頼むわ」

ほれ、と財布を投げられてキャッチする。この前みたいに盗られるなんて失態、もう犯さないんだから!

「サボテンにちゃんと水あげて下さいね。いってきまーす」

「おーいってらー」

がちゃ、ばたん
ドアを閉めてスーパーへ向かうべく歩き出した。







『Z市に大量の蚊の群れが向かっています!!住民は絶対に外に出ないようにしてください!!』

『災害レベル鬼』

そんな街頭スクリーンのニュースの声を皮切りに、わぁわぁと人間達が走り出した。どうやら家に急いで帰るようだ。
私もこれは流石に危機だよね…!?

プリン二つと緑茶の元が入ったビニール袋を揺らして急いで無人街へと向かう。お茶なんか明日にしておけばよかった。

サイタマさんのことだから、窓閉めてなさそう!というか寝てそう!大丈夫かな!?
スクリーンに映った映像には、血を吸われてミイラのようになった動物達が映っている。

走りに走っていると、道路脇に真っ二つになった人のミイラがあった。多分吸われたんだろうな…
立ち止まらずに走っていると、ブブブっと耳障りな音。
これは…
振り向くと結構な量の蚊が飛んでいた。私に向かって。

「緑男の血なんか吸ったって美味しくないからやめてぇええ」

すぐに手から私を囲うようにレモングラスとペパーミントを生やす。
目をぎゅっと瞑って待機していると、ブンブンとうるさかった音が消えてきた。

「ちょっと…ちょっとだけなら覗いても大丈夫だよね…」

そーっと瞼上げて外を見ると、蚊なんて一匹もいなかった。いなかったのだけど…
生やした植物らをしまい、少し先の空を見詰める。

大きな蠢く雲が浮かんでいた。あの位置は…サイタマさんの家の位置にちょっと近い!やばい!サイタマさん!

止めていた足を再び動かせる。もっと速く走って私の足!サイタマさん吸われてるかも!やばいよー!

そんな私の思いをかき消すかのように、ズドン!と爆発した。何がって、街がだよ。
私はというと爆風によって飛ばされて、地面に思い切り打ち付けられた。痛い。

「うあああん…もうやだ…痛い…サイタマさん…」

半べそかきながらも立ち上がって、また走る。ズドン!とまた音がした。今度はビルが折れたようだ。どうしてかは知らないけどビルが折れた。あの蚊に関係していることは明らかだ。

走って走って走って、漸く人影が見えた。サイタマさんだ!あとなんかまた真っ二つの人がいる!

「サイタマさん!!無事でしたか!?わた、私、すっごい心配して……」

「あ?おう、ちょっと蚊がな…どうした?」

なぁにが、どうした?だよ…この、このハゲ…!ほんとに…!

「ひ、人が心配してんのになんでアンタは全裸なんですか!!ばか!!ハゲ!!」

「ハゲは関係ないだろ!」

半べそかいてワァワァ喚く私と、ハゲというワードに反論するサイタマさんと、上半身だけの人という謎の輪がその場に出来上がった。




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