毒の花 | ナノ
サイタマさんの住んでる無人街から出て少し歩いたところでは無人街とは打って変わって人がそれなりにいた。ここはZ市らしい。

お上りさんとほぼ同等の私は、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていたため、どんっと真っ正面から人にぶつかってしまった。

「あっ、すみませ…きゃああ怪人!!」

「えっ!怪人!?」

ぶつかってしまった女性が謝ってきたがすぐに悲鳴をあげられた。ちっげぇよ!怪人じゃないって!

すぐに辺りはざわざわと騒ぎ立て、女性は一目散に去ってしまった。

「ヒーロー!誰かヒーロー呼んでこい!」

そんな声が聞こえる中、少し先の十字路で大きな轟音が響いた。
私の周りで怖がっていた人達も私も轟音につられてそっちを見る。どうやらモノホンの怪人がお出ましだ!この騒ぎに紛れて逃げてやろう!

くるりと踵を返して逃げようとしたとき、後ろから物凄いスピードで何かが私の横を通り過ぎて行った。あの轟音の正体だ。

「にゃはははは!ワタクシはネコマター!お金が大好き過ぎて怪人になってしまったのよ!泥棒猫とはワタクシのためにある言葉ですわね!にゃはははは!!」

よく喋る怪人だ、と呆れていると、周辺にいた人が叫ぶ。

「あれ!?俺の鞄がねぇ!?」

「あっ…あれ!あれ私の鞄!」

「ほ、ほんとだ…!俺のも…!」

泥棒猫とは読んで字のごとく。スリをするようだ。怪人がスリをして何になるんだか分からないけど私には関係のない事だ。にしてもあのネコマター、ちょっとかわいい顔してるのにあれで怪人なんて勿体無い。

道の脇を通って今度こそ逃げようとした時にふと気付く。
うん…?サイタマさんから預かった財布は?うん?
ネコマターを再度見やる。複数の鞄を手にしている。サイタマさんの財布は……?
じーっと目を凝らして漸く見つけた。財布だけだから普通に手に持っていたようだ。

ネコマターに一歩、近付く。

「にゃははっ…なぁに?あんた。ヒーローかなんかかしら?」

「あ、いえ違います一般人です。それよりその…手に持ってる財布を返してほしいんですけど」

「にゃはははは!だーれが返しますか!おバカちゃんねぇ、頭の中もお花畑なんじゃないのぉ?なんで奪ったものを簡単に返すのよ!」

頭の中もお花畑!?この怪人、下手すりゃサイタマさんより口悪いよ!?

突然の暴言にびっくりしたけど、「ヒーローがそろそろ到着するってよ!」との声を聞いてしまい、「ワタクシは捕まらないわよ!にゃはは!」と言ってジャンプで跳び去ろうとしていた。

とっさに声を張る。

「あの!もしその財布持って行くならこっちの金目のものも持って行ってくださいよ!」

「にゃは…あーん?ほんとに頭の中もお花畑だったのね!あんた!にゃはは!いいわよもらってあげる」

ネコマターが近づいて来る。周りの人もざわざわとした。そりゃそうだ、財布盗られたから他の金目のものもあげるなんて頭おかしい。因みに私の荷物は財布だけだったから金目のものなんて一つもない。

ぱっと両手を前に出す。

「じゃじゃん!サクユリです!」

「にゃぐッ…!?」

油断して近づいて来るネコマターの口に思いきり突っ込むように、手の平から咲かせたサクユリを出した。
うまく口に入ってくれたようで、ネコマターはとてつもなくもがき苦しんでるようだ。
私の記憶が正しければ、ネコにサクユリは毒のはず。

本来、こんなこと滅多にしないけど…このまま財布を返してもらえないときっと私の命がない。サイタマさん怖いし。

少しして、騒ぎを聞きつけたヒーローが漸く登場したようだ。
私の行動にぽかーんとしてた人達がわああっと喜んでる。
面倒なのでとりあえず財布だけを抜き取ってすぐにその場を去った。

白菜買わなきゃ白菜。


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