毒の花 | ナノ
足を引き摺るように一歩、また一歩と歩いて行く。片手には裏に色々書き込んだチラシ数枚、片手にはペン。情報収集の宝物である。
普通、人間という生き物のほとんどは私たち悪魔の存在は見れないはずなんだけど、この世界はどうやら違うらしい。そのおかげですれ違う人間たちにジロジロジロジロ焼けるほど見られた。そんなに私はかわいいのか?お?まあ聞き込みが楽にできたって点では良かったと思える。



そして歩いて歩いて、気付くと無人街のような場所だった。ここがどこだが分からないし、どれくらい歩いたか忘れた。何よりお腹が空いてもう歩けない。

ふいに段差につまづき、体力も殆どない上に両手は少々塞がっているせいで成す術なく転んだ。

ダメもう動けない。私はここで飢えて死ぬのか。悪魔が飢え死にって何それ笑えない。何で私はお腹が空くんだ。ちくしょう。今頃アマイモン様は人間が作った美味しい物を食べていらっしゃるんだろう…ズルい…死ぬ…さようなら…

遺言でも残してやろうかとペンの蓋を口で取って地面に「呪」と書いた所で何かが近付く気配が来た。恐らく、私が人型をしているので人間が倒れていると慌てて近寄って来たんだろう。

「………」

「………」

瞑っていた瞼をゆっくり上げると、ビニール袋を引っ提げた人間がいた。ただの買い物帰りのようだった。そしてハゲていた。

「……無視でいっか」

「待てこら!いたいけな少女が飢え死にしかけてるんですよ!助けやがれ!」

「怒鳴る元気あんじゃねーか。というよりいたいけな少女は特売セールのチラシなんか握るわけねぇだろ…」

「…そうですか…私が死んだら…貴方をもう二度と毛が生えない体質にしてみせます…ハゲ…」

ハゲの眩しい頭皮に青筋が浮かんだのを見て目を再び閉じれば、深い溜息の後に軽々と持ち上げられて歩き出してる。やばい。肩に担がれてる。力持ち過ぎる。人間の成人男性は皆こうなのか?と動揺してると、ハゲ…いや、おハゲさんが口を開いた。

「お前、怪人じゃないよな」

「…怪人、ですか。ちょっと違うと思いますよ」

怪人についてはもう情報収集済みだ。私達悪魔と怪人を一緒くたにして欲しくない。

「ちょっと違うってどういうことだ?」

「私、悪魔…なんです」

「ああ、そう」

「信じてない、ですね…本当に私、悪魔なんてす…なん、です…」

「眠いのか?」

呂律も回らず話すスピードがゆっくりになった私を睡魔に襲われてると思ったらしい。残念、腹が減ってどうしようもないだけだ。

「……おなか…」

「…空いたのか。マジで飢え死にかよ」

はぁ…とまた溜息を吐いた。幸せ逃げますよ、と口を開けようとしたけど思った以上に声は出なかった。








「いやーお腹がいっぱいです!特別美味しいわけではないですけど美味しかったです!」

「普通に失礼だなお前。ごちそうさまくらい言えよ」

お腹いっぱいで幸福状態の私に、おハゲさんが呆れたように言う。おハゲさんの料理の感想を正直に言っただけなんだけど…お世辞は大事なようだ。
それより、今おハゲさんが言った中で私が気になったことを問う。

「ごちそうさま、とは?」

「はぁ?…わかんねーの?」

「はあそりゃすみませんね」

「なんでいきなり高圧的なんだよ」

結局の所ごちそうさまとは何なんだ?
疑問符を飛ばす私に、おハゲさんは呆れたように答えてくれた。

「飯食う前にはいただきます、食った後にはごちそうさまって言うんだよ。ちゃんと意味だってあるんだぞ」

「アマイモン様はそんな挨拶一度も言ってなかったのに…」

「あまいもん?人の名前か?」

「人ではありませんが、私の上司です。悪魔です」

「あ〜はいはい悪魔悪魔」

「信じてないですね!?」

「わかるわかる。お前、あれだろ、妖精さんとかと友達なんだろ?わかる」

「いや全然わかってねーじゃん!!」

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