毒の花 | ナノ
「あーバイトやだなー」
ぽとぽとと花屋までの道程を歩く。
仕事内容やミヤギさんのことに全く不満はない。ないのだけど。この前のコート男がちょいちょい店を訪れるのだ。名はゾンビマンさん。こないだ聞いた。よくよく見ると大分イケメンなので嬉しい。目の保養。
まぁジェノスさんいるから目の保養には困ってないんだけど…と、そういう話ではなかった。
ゾンビマンさん、こちとら働いてるというのにちょっかい出してきたりと面倒なのだ。なんだよあの大人。大人しくして。大人だけに。
「いやはや我ながら傑作」
「おい女!お前も働きたくないと、そう思っているなら働かなければいいんだ!」
「うん?」
自分のギャグセンスに惚れ惚れしてると大きなハ、いや…坊……ハゲが話しかけてきた。パッと反射的に目を逸らすとその先にもハゲ。また目を逸らすとその先にもハゲ。ハゲ。ハゲ。ハゲ。ハ…
「は、ハゲが大量発生してる!!」
驚いてすぐに逃げた。後は追ってこない。去る者は追わないハゲらしい。こわい。なんであんなにハゲがいた?ヲーリーを探せならぬサイタマさんを探せでもやってたのかな?そりゃ参った見つからないに決まってる。
「ミヤギさんこんにちわー」
「あらハナコちゃん。今日もよろしくね」
***
「よぉハナコ」
「こんにちはゾンビマンさんまた来たんですか」
「別に対して忙しくないんだからいいだろ」
「失礼な人ですね!本当に社会人なんですか!?もしかして働いたことないんじゃないですか!?あ、恥ずかしがらないでいいんですよ?誰だって最初というものはあるんですから!私も実はここが初めての勤め先で…えへへ言っちゃいました!えへへ!」
「うるせぇ口だな」
「おふぅっ」
今日も今日とて遊びに来たゾンビマンさんに片手で頬を挟まれた。手でかいなおい。
「はひゃひへふひゃひゃひ」
「あ?わかんねぇよ」
「ほんの!ほほん!」
他にお客さんがいないからって調子に乗りやがって!
脛をげしげし蹴ると離されたが頭を叩かれた。なんて奴だ。
「あーら仲良いわねぇ」
「あ!ミヤギさん!おかえりなさい」
「どーも」
「ふふ、私は奥にいるから好きなだけいちゃいちゃしてていいのよ」
「ですってゾンビマンさん!」
「お断りだ」
「きいいいいこの男は!」
うふふ、と笑いながら結局ミヤギさんは奥の部屋へ行ってしまった。まぁいいんだけど。
どうやらバイトの私含めてこの花屋は私とミヤギさんしかいないらしく、私がバイトの時はいつも夕飯の買い出しや用事を済ませたり休憩している。なのでミヤギさんは既に最近よく花屋に訪れるようになったゾンビマンさんとも邂逅していた。
「私みたいな美少女とデートなんてそうそう出来ませんよ」
「いや仕事上俺はそれなりに注目されてる方だ。お前より可愛い奴なんて沢山見たことある。寧ろお前以外全員可愛く思える」
「うるせーよ」
余計な一言言い過ぎです、とジョウロの水をちょっとコートに掛けたら怒られた。怒りたいのは私ですけどね!
「そういえば仕事ってゾンビマンさん何やってるんですか?」
「……お前、ゾンビマンって聞いたことないのか」
「はい?ゾンビマンさんは貴方の名前でしょう。…あ!そういえばヒーロー関係でしたよね。寧ろヒーロー」
「ああ、そうだ。…本当に聞いた事ないのか?」
「はあ。もしかして自分有名とか思っちゃったりしちゃってる系のヒーローさんですか…?ウフフ!意外とかわいいですね!」
「殺すぞ」
「いでででで!可愛げのない野郎だ!」
結構痛いデコピンをしてくるものだから、この野郎!と肩パンするけどビクともしなかった。寧ろ私の方にダメージがきた。
痛む手を摩っていると「じゃあそろそろ帰る」とコートを翻す。
「あ、さようなら。もう来なくても結構ですよ」
「ああ、また来る。じゃあな」
「この野郎!」