エレベーターに乗り込んで、飛都羽が押したのは4階だった。
都合よく自分たち以外誰も乗っていない静かな箱が動き出す。
「なぁ一葉君」
「なに」
一葉の気分は高揚していた。
今までに積もり積もった自分勝手な恨みを晴らせるのだ、やっと。
それがどれだけ傍迷惑なものであっても。
「一葉君は、荒輝から逃げた恋人?」
「残念、違うよ」
「わかった、じゃあ恋人の親友で腹の黒い子だ」
「…随分、荒輝と仲がいいんだな」
ズン、と一葉の声が低くなった。
それを見て飛都羽の爽やかそうな表情が意地悪く歪む。
「ま、ね。最近荒輝鬱陶しい位に鬱なんだよ。だから君を連れてけば解決するかな、なんて」
「それはどうだろうな。少なくとも、面白い事はしてやるけど?」
一葉がにぃ、と口角を上げると、至極楽しそうにかかかっと飛都羽が笑い声を上げた。
ピンポン、とエレベーターが目的の階に到着する。
先に出た一葉は飛都羽に振り返った。
「おまえみたいな奴ぁ嫌いじゃねぇよ」
「光栄だな。俺もお前みたいな外面がよくて中身真っ黒な奴は大好きだぜ?」
一葉と飛都羽の周りには、心なしかドス黒いオーラが漂っていた。
類は友を呼ぶ、きっとそんな状況なのだろう。
「こっちだ」
曲がり角を曲がって、飛都羽が指さした教室にはパラパラと人が集まり始めていた。
促されるまま教室を覗き込むと、女生徒に囲まれた茶色い髪の憎き男。
ニヤニヤと傍観するように隣に立つ飛都羽と視線を合わせ、一葉は大きく息を吸い込んだ。
「こーおーきーくーん!!!!!!!」
ゴミ袋を抱え直す。
足を窓枠にかけ、教室内に飛び込んだ。
目標は真っ直ぐ、荒輝。
「死ねやクソヤリチンがぁぁぁぁっ!!」
驚いて身動きどころか声すら出ていない荒輝の周りが、案外冷静に離れていく。
一葉は目をこれでもかと見開いた荒輝に向かって、ゴミ袋を振り上げた。
ガシャン、
「ぃ……っ!!!」
綺麗な放物線を描いたゴミ袋は、吸い込まれるように荒輝の顔面へとぶつかった。
相当痛いのだろう。荒輝は顔面を手のひらで覆って机にしなだれている。
しかも中身はただのゴミではない。写真立てを筆頭にした燃えない上に堅い物ばかりなのだ。
「っしゃ命中!元野球部舐めんなよっ!」
「か、一葉っ…」
あー今日もいい仕事した、と伸びをする一葉に向けて、涙目になった荒輝が顔を上げた。
何かの角が当たったのだろう、額に赤く線が入っている。
周りの女子達や他の生徒も、あまりの状況に固まったまま。
唯一、豪快にかかかっと笑う声だけが響いていた。