「ねぇ」

一葉は初めて荒輝の大学に足を踏み入れた。
青いゴミ袋を担ぐようにして肩にかけて、恐らく荒輝の学部があるであろう建物へと向かう。
だがやはり内部や荒輝の授業予定などわかるはずもなく。

普段は絶対にしないであろう優しげな微笑みを作り上げ、一葉は最終手段、男に聞く、を実行する事にした。

「な、んですか」

線が細いため不本意ながらレディースものの衣服を纏った一葉が微笑みを讃えて声をかければ、男子生徒はその天使のような姿に皆同じように固まり、声が上擦る。
慣れたとはいえ、一葉にとっては鳥肌ものでしかないのだけれど。

「荒輝って人、どこに居るかわかる?」

すでに三人に声をかけている。その全てが不発に終わり、その上案内というナンパにまで遭遇した一葉の機嫌は絶不調だ。

こいつがダメなら放送ジャックしてやろうか。そんな物騒な事を沸々と考えている時だった。

「荒輝?俺コマ一緒だから連れて行こうか?」
「本当?お願いします」

四人目の男は当たりだったらしい。
携帯をいじりながらも親切な言葉をもらった一葉の口角は知らず上がっていた。

「じゃ、行こうか」
「はい」

男の隣を、ゴミ袋を担ぎ直して歩く。

「荒輝の友達?」
「そんなとこかな」
「ふぅん…俺、飛都羽ってゆうんだ、おまえは?」
「一葉」
「カズハ?似てるな」

かかかっと案外豪快な笑いを零して飛都羽が笑った。
おかしな奴…そう心の中だけで呟いて一葉は愛想笑いを返した。

荒輝の友人ならば、これから俺が荒輝にしようとしている事を知ればそんな風に笑っていられないんだろうなと考えて、楽しげに口元が歪んでいく。


ゴミ袋の中の写真立てには、満面の笑みを浮かべた静貴が荒輝と共に寄り添っている。


歩く度にピアスがカチャリカチャリと音をたてた。