一葉の自宅から徒歩15分、電車で30分、そこからまた徒歩5分。
静貴と一葉の通う大学はそこにある。
荒輝の大学はもう少し遠いんだっけ。

「何しみじみ考えてんだ俺」

どうしても思考の結末が荒輝に繋がる自分に呆れたのは、これで何度目だったか。
ここ一週間、気づいたら盛大な溜め息を零す自分がいた。
本当に溜め息と共に幸せが逃げていくなら、きっと二年分は逃がしているに違いない。

何が、いいんだ、だ。
ちっともよくないじゃないか。
最後の最後まで女々しい男を改められない自分に苛立ちが募る。
自分から勝手に出て行ったくせに、心の中では連絡が一度もない事に死ぬほど落胆しているのだ。

別れ話でも何でも、一度も連絡が来ないとは。所詮自分はそれだけの存在だったのか。
もう何度携帯のディスプレイを睨んだんだろう。
あの日からマナーモードに出来なくて、夜中に広告メールがきて飛び起きた時は情けなくて海に沈みたくなった。

「お、静貴ぃー!」
「あ、おはよん」

鬱々と大学への道を歩いていると、正門前で友人が静貴を呼んだ。
そこでやっと目線を上げた静貴は、門前での異様な光景にやっとこさ気付く。

「何、なんか人集まってるし」
「お前探してんだって、すっげぇ美人が聞き回ってんの!」

目の前まで来た友人が早口でそうまくし立てて静貴の腕を掴む。

自分を?美人が?
…誰だよ。

腕を引かれながら思い当たる事はないか考えるが、静貴には心当たりはなかった。不思議に思いながら引かれるままに足を進める。

門の前まで来た時、人の間に見える女性と視線が合った。

確かにすっげぇ美人。
でも会った事ねぇよなぁ。

「おねえさーん、静貴ってこいつ」
「あなたが静貴君?」

友人が静貴を前に押し出すと、今まで男子生徒に囲まれていた美人がそれを押しのけて静貴の前に立った。
その表情はホっとしたように緩んでいる。

「そう…っスけど」
「初めまして、香織と言います。少しお時間頂けないかな」

香織、と名乗った美人は、周りを気にするように見回してから困ったように笑った。
何か話しがあるのだろうか。
だとしたら確かに、この人通りの多い場所は好ましくない。


「いいっスよ。なぁ、俺今日欠席するから」
「おー!じゃーな静貴」
「静貴君ごめんね」
「はい、じゃああっちの喫茶でいいっスか?」
「えぇ」

友人に欠席の旨を伝えた静貴は、香織を促して大学横の喫茶店に足を進めた。


静貴の少し後を歩く香織は、申し訳なさそうに、しかし何かを決意したように静貴の後ろ姿を見つめていた。