「シャワーお先ー」
「あぁ」

荒輝は先にシャワーを浴びさせた香織が自室に戻って来たのを見て、自分も汚れた体を流す為に風呂場へ向かった。

香織はあっさりした女だった。荒輝を見て甘えたようにすり寄るでもなく、彼女面するでもなく。
ただ単に荒輝とのセックスを楽しむ。そんな女だった。
だからこそこうして何度も体を重ねているのだろう。
女として愛せるかと聞かれれば、ノーなのだけれど。

キュ、とコックを捻る。
予め設定された温めのお湯を頭から被って、荒輝は目を閉じた。

いつもこの熱が覚めた時に想うのは、静貴の事。
いや、熱に浮かされて女に自身をねじ込んでも、いつも静貴を想う。

静貴は何も言わなかった。何度女を連れ込んでも、返事をしなくても。何も。
それこそ、最初の浮気の時だって。

「…あれは浮気じゃない、か」

あの時は大学の知り合いの女に絡まれていただけなのだ。
急に腕を組まれて、強引にキスされて。
やめろと何度言っても離れてくれなかった。静貴と待ち合わせしているのに。

そこに現れた静貴に気付いたのは、女の背中越しだった。
じっとこっちを見ている静貴を見て、もしかしたら割り込んで来てくれるかもしれない。
嫉妬する静貴がみれるかもしれない。

あぁ、思えばそんな欲望を抱いたのが間違いだったのだ。


期待を込めた眼差しを向けたのに、静貴はバイバイと手を振って去って行っただけだった。
唖然とした。

静貴が、笑っていたから。
自分の愛する恋人は、何食わぬ顔で小さくまた今度、と言ったのだ。

家に帰っても、何事もなかったかのようにお帰り、と笑われた。


その後はもう、なし崩しだった。
しょうもない、子供じみた意地をはった。

次こそは、次こそはと。もう思い出せない位女を家に連れ込んだ。
きっと静貴だって気付いてるのに。

やっぱり彼は何も言ってくれなかった。

元来彼に好きだと伝えるのは全部自分からだったと思う。
言葉も態度も、惜しみなく愛を注いだ。どれだけ愛してると囁いても足りない位に恋しかった。
けれど、ただの友人の時から静貴の態度は変わらなかった。

本当は自分の事をそこまで好きだった訳ではないのかもしれない。
そうでないと説明がつかないのだ。
自分はいつでも、四六時中静貴の事を考えているのに。
今頃は一葉辺りと一緒にいるのだろうか。
それともまた別の友達と?

今日の夜も、何も言わない静貴の背中を見つめなければいけないのか。