あぁもう、マジ最近の俺って踏んだり蹴ったりだ、こんちくしょう。
【角砂糖】
「っくそ…酔っぱらいってのは容赦ねぇ」
口内に溜まる血を吐き捨てて、静貴は一人ゴチた。
排気ガスと無駄に煌びやかな繁華街のライトで見上げた夜空には星など一つも見えない。
静貴が座り込む路地の一本外から聞こえる人の声が、更に侘びしさを感じさせた。
「はぁ…やってらんね」
暗いだけの夜空は見ていても気分が悪くなるだけで、静貴はそっと目を閉じた。
それから今日一日を思い返す。
朝。大学に行く道すがら、庭の水まきをしているじぃさんが手を滑らせた。つまり俺は朝から水被っちゃった訳だ。
昼。どっかで財布を落としたらしく、親友に飯を奢ってもらう代わりに行列の出来る洋菓子店で朝から並ぶ事を約束させられた。
夕方。家に帰ると玄関に女の靴があった。結局帰れずに外をブラブラする羽目になった。
夜。帰ったらあいつも女も居なかった。無償に虚しくなったから寝てしまいたかったのに、あいつの角砂糖がなくなってたのに気づいてしまった。
だから、お優しい俺はわざわざ買いに出たというのに。
今。酔っぱらい集団に絡まれた挙げ句セクハラ。全力で拒んだ末路は集団で暴力だ。
せっかく買った砂糖も踏みくちゃにされて可哀相。そんでもって俺も可哀相。
「…んで俺女顔なんだろ…男だっつーの…」
女の子からの集団痴漢なら大歓迎なのに。
何故男。
「…つーか、もう全部あいつのせいだし」
いい男のくせにコーヒーは砂糖必須だし、女たらしだし。
もう何回目だよ家で女の靴見んの。
言った事ないからって、知らないと思ってるのか。
「…帰ろう、疲れた」
引きつる足を叱咤して立ち上がる。
静貴は小さく舌打ちをして歩き出した。
ぐちゃぐちゃになった砂糖の袋は拾わなかった。