「木津、茶ぁ」

「えぇ!?また俺!?」

毎度のやり取りをまた繰り返した先輩二人を見て、後輩二人はいい加減慣れたのか何事もなかったかのように談笑へと戻っていった。

もはや当たり前になった四人での昼食。柚綺が陸をこれでもかとパシり、文句を言いつつ逆らわない陸、柚綺のやる事なす事格好いいと思っている遊依、パシられる彼氏が可愛くて堪らない明輝。
合わなそうで実に噛み合ってしまった四人はきっと、初めからこうなると決まっていたのではないかと誰もが思っていた。

「遊依くんに頼めばいーじゃん、彼氏なんだし!」

「ぁあ?俺のモンにんな事させる気かクソ野郎。パシリはてめぇの仕事だろ」

「今までの恋人にはさせてたくせにー!何その溺愛っぷり!」

「まぁまぁ…陸落ち着いて、ね」

「わー俺ちょー愛されとるやーん!!」

ギャンギャンと喧しく叫ぶ陸をチラリと見遣って、柚綺は椅子に踏ん反り返った。喉が渇いたというのに、何と使えないパシリだ事か。

「うるせぇ。遊依には夜働かせてっからいーんだよ。俺の下でな」

「ぬぁぁぁっ!!何言うとんの先輩!」

煩い煩いと態度にするように、柚綺の両人差し指が自分の耳を塞ぐ。
揃って赤くなった三人は、言葉を無くした明輝をそのままに柚綺を責めたてた。

「え、ちょ、早くない!?もう遊依くん食っちゃったんか!?」

「食う言うな木津先輩!明輝は初やねんで!ほら、固まって目ぇ回しとるやん!」

「わっ明輝!ごめんな、大丈夫だからなっ…」

「いや…二人共落ち着こう?それに何が大丈夫かわかんないよ…大河内先輩を見習って」

柚綺はともかく、三人の中で一番冷静なのはきっと明輝だろう。
一番小さくて一番雰囲気が柔らかい、下手すれば遊依と同学年に見えない容姿をしているが、中身は中々のものだ。

そんな明輝に嗜められたものだから、より一層落ち込む二人を尻目に明輝と柚綺は対照的な目つきでアイコンタクトを交わした。
柚綺は可笑しそうに、明輝は、毎度毎度丸投げしないでくださいと。

「あ、あのさユズ…いつシたんだ?」

「陸!」

「木津先輩!」

「だって気になるじゃん!いつの間にかくっついてるし!」

今度は後輩二人に睨まれるが、陸も負けじと言い返した。
親友と恋人の友達。そのカップル事情が気になるただのデバガメである。

すると、さして気に留めた様子もなく柚綺はさらりと口を開いた。

「付き合った日の晩。連れ込んだ」

「早っ!」

「は…やいね…」

今度押し黙るのは、遊依だった。
パクパクと酸素不足の金魚のような真似をする遊依に笑い、柚綺はその手を引いて立ち上がった。
使えないパシリにお茶を頼むのはもう待ちくたびれた。
まだ昼休みは長いのだ。

「俺のもんを俺がどうしようが問題ねぇだろ。俺の可愛がり方が不満か遊依?」

そんなもの、遊依が頷くはずがない。

小さく首を振るしおらしい姿に、陸と明輝が疲れたように手を振る。それを背に、二人は食堂をでていった。

恥ずかしげもなく、手は繋いだまま。

後に残された二人は顔を見合わせて呟き、堪らず吹き出した。

「なんか楽しいね」

「だな」

これからもこんな風に過ごしたいと、四人がそれぞれ同じ事を思っているのは、誰も気付かないまま。

END