緩く裾口を握る指先は、遠慮が滲み出ているかのように殆ど添えているだけだった。
だが、見上げてくる表情は覚悟を決めたように真剣、そして隠しきれない不安が見え隠れしている。

面白くねぇなと舌打ちしそう。
けれど、してしまえば今以上にその表情が陰るのは目に見えていた。だから我慢する。
言ってしまえばなんて事ない。

小さいながらも、大事にしてやろうかと思っている証拠だった。

「落ちてはやらねぇよ」

目尻に残った水分を掬うと人差し指が微かに濡れた。
そのまま頬をなぞる。
黙ったままの遊依の頬に描かれた見えない水の軌跡に唇を押し当てて辿った。

「なぁ遊依、知ってっか?」

「何を、ですか?」

「最初からお前は俺のモンだった」

少し俯いて、頷く。
その素直さは俺が堪らなく可愛いと思える所だった。

「先輩は?」

「あ?」

「先輩、は…誰のんなんですか…?」

袖口添えたままの手がいじらしくて強引に繋ぎ直す。
指と指の間に組まれた遊依の指は、喧嘩で拳の潰れた俺のものより遥かに綺麗で、噛み付いて歯型を残したい衝動に駆られた。

「てめぇが俺しか見てねぇ内はてめぇのモンだろうがよ」

「ホンマに…?」

「ただ、」

「何何?」

「俺と付き合って一ヶ月以上耐えた奴は居ねぇ」

遊依はいつまで保つんだろうな、と耳元に吹き込んでやると、こそばゆさからか身をすくませた。
そしてキツク俺を睨んで来る。

「他の腰抜けなんかと一緒にせんとってください!俺が先輩フるとかありえん!絶対ない!だから先輩はずーっとずーっとずーっと俺のモンです!」

「生意気」

「だって!先輩と付き合っといて耐えられんとか死刑やし!俺は先輩の過去の奴らより何万倍も先輩の事好きやもん!」

鼻息荒くそう言い切って顔を赤くした遊依は、勢いのままどすんと飛び付いてきた。
がっしりと背中にまわされた腕は子供がお気に入りの玩具を独占する様に似ている。

「……好きだぜ」

どこまでも俺好みなお前の事が。