恐々と見上げてくる表情が、俺に僅かな優越感を味あわせる。
ふんわりとした灰色の髪ごと頭を掴むと、見た目通りの猫毛が手の平を擽った。

「うぜぇよお前」

痛みに顔を歪めていた遊依が、目に見えて傷ついたように俺から目を逸らした。
掴んだ頭を力任せに後ろへ傾けると、喉仏が俺の眼下に晒される。
いつもいつも、そう。
俺を好きだ好きだと連呼する割に、遊依は少し、誰にでも無防備過ぎる。
告白に対してOKを出した訳ではないが、俺を好きだと言うなら俺以外を視界に入れない努力くらいするべきだ。

「痛ぃ、先輩っ」

「お前何考えてんの?俺が好きなんだろ?」

無理に空を仰がされて息苦しいだろうに、遊依の手は抵抗する事もなく垂れ下がったまま。
必死に俺の表情を伺おうと瞳を動かす姿は、やはり可愛いと思えた。

「好き、です」

「じゃあなんですぐ呼ばねぇんだ」

「痛っ…、それ、は…先輩、どっか行ってもて、」

「大声で呼んでみろよ。てめぇの声くらい聞こえる」

耐えるように閉じられた瞳から、流し続けた残滓が絞るように生まれた。
上向いた顔のこめかみを通って、ヘアバンドに染み込む。

少し低い遊依の身長が、これ程までにしっくり来るものなのかと思いながら、真一文字に結ばれた唇に噛み付いた。

「…っ!?」

開かれた瞼から、驚きに瞬く瞳がぼやけた視界に見える。
閉じたまんまの唇は一度震えたきり、開く事もなく。
痛くない程度の力で噛んでいた自分のそれを離した。

通りすがるサラリーマンが今の遊依と同じくらい唖然とした視線でこちらを見遣る。一睨みしてやるとすぐさま誰もが目を逸らした。

「なぁ遊依、もう好きだは聞き飽きた」

「せ、せん、せっ」

「言ってみろよ」